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大物プロデューサーのセクハラ騒動と、ハリウッド文芸映画の衰退
一方で、今回の「ワインスタイン解任劇」ですが、その主役となった共同創業者というのは、ボブ・ワインスタイン氏、つまりハービーの2つ年下の弟です。2人は、「ミラマックス(兄弟の両親の名前を合わせたもの)」を最初はロックコンサートのプロモーターとして立ち上げ、その後に映画産業に進出、ディズニーをスポンサーに引き入れて多くの作品を共同で製作してきました。
やがて、ディズニーが「ミラマックス」から手を引くと、兄弟はその「ミラマックス」を売却して「ワインスタイン&カンパニー」を立ち上げたわけです。その「ワインスタイン&カンパニー」から、ボブ氏が兄のハービーを「追放」したわけですが、そこには単に兄のセクハラが露見したというだけでなく、現在ハリウッドが抱えている経営上の問題があるという見方もできます。
若いときから二人三脚で映画のプロデュースをしてきたワインスタイン兄弟ですが、兄のハービーは文芸志向であった一方、弟のボブはエンタメ志向ということで明確な「分業体制」があったようです。
ミラマックス映画にしても、ハービーがのめり込んでいった『イングリッシュ・ペイシェント』や『恋におちたシェイクスピア』といった文芸作品の製作費は、若者向けのホラー作品である『最終絶叫計画』シリーズや、子供向けの『スパイキッズ』などボブの担当した作品が稼いで帳尻を合わせていたと言われています。そうした二人三脚は「ワインスタイン&カンパニー」でも続いていたようです。
ですが、2008年のリーマン・ショック、そしてこの前後以降のDVDからストリーミング配信への移行、あるいはシネコンの集客力の鈍化など、映画産業全体が激変する中で、「スーパーヒーロー映画」などは依然として収益が期待できるものの、文芸作品を取り巻く環境は厳しくなっていきました。ですから、兄弟のうちで文芸映画を担当していたハービーを、エンタメ中心のビジネスを率いていたボブが「事件を理由に追放した」という見方もできると思います。
文芸映画というジャンルの苦境という観点では、「ワインスタイン&カンパニー」のライバルであった「レラティビティ・メディア」が2015年に経営破綻した事件も思い起こされます。この「レラティビティ・メディア」は、かつての「ミラマックス」以上に「エンタメ作品」と「文芸映画」の双方のジャンルにわたって多くの作品を製作していたのですが、結局は行き詰まってしまいました。
「レラティビティ・メディア」破綻の影響で、多くの作品の製作が難しくなり、今でも業界にはその後遺症が残っています。さらにこれに、ワインスタインのスキャンダルという事件が重なったわけです。今回のセクハラ事件は、弁解の余地のないものである可能性が高いですが、同時にハリウッドの文芸映画というジャンルが勢いを失っていることの象徴でもあるように思います。
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