コラム

小田急線火災の本当の問題は、燃えた車両の屋根より地上の避難体制

2017年09月14日(木)16時00分

一つは遅燃性です。つまり高温の炎にさらされても、すぐには引火しないという性能で、一般的には「着火まで5分」というのが基準になっています。

もう1つは、自己消火性能です。いつまでも燃え続けていたら、最後には金属製の内部が溶けて車体が歪んだり、それこそ車内に引火したりという可能性が出てきます。ですから、「燃えたらサッサと炭になって消える」性能というのも重要です。

こうした点から考えると、今回の事例における絶縁塗料の難燃性ですが、全体としては「車体を守ったので基本的には難燃性能が発揮された」ことになります。真っ黒に焦げたのは一見するとショッキングですが、「自己消火性能」の証明であるとも言えます。

ただ、8分間の停車で完全に引火したということで、本当に「5分」という遅燃性能が発揮されたのかは検証が必要です。ですが、とにかく車体にも、車内にも何の問題もなかったのですから、難燃性能は全体として発揮されたと言うことができると思います。

むしろ、「一歩間違えば大惨事」というのは、屋根の炎の問題ではなく、コミュニケーションと避難の体制にあると言えます。混乱の中で、架線や線路の安全確認が十分できないまま、乗客が線路を歩いて避難するというのは大変に危険だからです。

石井啓一国交大臣から「鉄道と警察・消防の連携が必要」という発言が出ていますが、今回の事故を真剣に受け止め、沿線火災など鉄道が関係する火災の場合、鉄道の運転司令所を中心とした連携体制を取り決めておくことが重要だと思います。

【参考記事】民営化30年の明暗、JR北海道とJR四国の苦境

警察・消防との連携に加えて、鉄道事業者の側にも様々な改善点があると思われます。まず、私鉄、JRを問わず、近距離の通勤電車の場合、運転士と車掌が乗務しているので進行方向と、後方の視認はできますが、側面の確認というのは非常に難しくなっています。

この小田急線参宮橋駅付近の火災が起きた10日には、夜になって中央線の大久保駅付近でも沿線火災が報告されていますが、こうした沿線火災に関して、運転士や司令所が、乗客の視認よりも認識がはるかに遅れるというのは問題です。

ワンマン運転をしている地下鉄のような場合は、乗客が運転士や場合によっては司令所と直接会話ができるような仕掛けをしているケースがあります。確かに、乗客からの通報に期待するという方法もあるわけです。ですが、今回の参宮橋駅付近、大久保駅付近など、大都市の密集地域を鉄道が走る場合など、沿線の状況を時々刻々とモニターする広角の赤外線カメラなどで自動的に異常高温を検知するなど、監視システムを整備することも必要ではないでしょうか。

都市の密集地を走る鉄道の安全性向上を図るには、今回の事件から様々な教訓を引き出さなければなりません。屋根の絶縁材について、仮に難燃性能が足りなかったのであれば、それは技術的課題になると思いますが、連携や避難誘導の体制づくりは待ったなしの課題です。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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