コラム

9.11から16年、アメリカの分断

2017年09月12日(火)13時00分

ペンタゴンのテロ現場跡でスピーチしたトランプ Kevin Lamarque-REUTERS

<同時多発テロから16年を経た今のアメリカには、グローバリズムに対して「前向きか、後ろ向きか」という分断が残され、その政治的エネルギーを取り込んでトランプ政権は動いている>

2001年9月11日の「9.11」から16年の歳月が経過しました。恒例となったマンハッタン南部の「9.11メモリアル」で行われた慰霊式では、今年も犠牲者の全員が読み上げられました。今回は、犠牲者の兄弟姉妹、甥、姪といった人々に混じって、亡くなった方のお孫さん世代まで「読み上げ」に登場しており、それはそれで感動を呼ぶとともに、時間の流れを感じさせたのも事実です。

一方で、この日はフロリダ州にハリケーン「イルマ」が上陸した翌日だったこともあり、「地元」ニューヨークでは午前中一杯「慰霊式での犠牲者氏名読み上げ」がCM抜きで中継された一方で、その他の州、あるいは全国一律のケーブルニュースではハリケーンの報道一色という中で9.11に関する報道は僅かでした。

ペンタゴンではトランプ米大統領が、初めての「追悼スピーチ」を行いました。このスピーチですが、時間がオーバーしてしまって、スピーチを中継していた局は、ペンシルベニアでの墜落時刻に行われた現地での黙祷などが「かぶって」しまうというハプニングがありましたが、内容は型通りのもので、あらためて大統領がこの「9.11テロ」に対して持っている冷淡な姿勢を印象付ける結果となりました。

そんなわけで、あらためて「9.11からの16年という長い年月」を実感させた一日であったわけですが、冷静に考えてみると、やはりあの「9.11」という事件が、アメリカを大きく変えたのは事実ですし、アメリカにおける分裂・分断というのも、あの「9.11」が契機になっていると言って良いように思います。

【参考記事】憤るアメリカ白人とその政治化

このアメリカの分断という問題ですが、表面的にはこの「9.11」という事件を受けて、「ホンネの部分には報復戦」という意味合いを濃厚に抱えていたアフガニスタン、イラク戦争に「のめり込んでいった」保守勢力と、これに反対したリベラル勢力の対立というストーリーが浮かび上がります。

ですが、この対立に関してはブッシュの政策をオバマが忠実に継承したことで、16年の間に沈静化しています。例えば、イラク戦争においてブッシュ政権は、「スンニ派勢力の屈服」を目標とし、その結果として「シーア派とクルド人が主導するイラク」を建設する方向となりました。その目標については、オバマは忠実に継承しています。

またアフガニスタンに関しても、タリバンとの闘いを進めつつも、タリバンの中に交渉相手を模索するということは、ずっと続いてきました。またアルカイダに関しては、とにかくオサマ・ビンラディンを捕縛して処断するという努力を続け、ブッシュとオバマの二代の大統領が追い詰めた結果、パキスタンで拘束、殺害するという結果になっています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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