コラム

共和党議員銃撃、「左派」支持者の凶行に衝撃

2017年06月15日(木)13時00分

考えてみれば、昨年2016年を通じてサンダース派というのは決して「お行儀が良い」とは言えないムードを漂わせており、一部には暴力を匂わせる雰囲気もあったのと、ホッジキンソンの場合は年代的にベトナム反戦運動が過激化した時代の記憶を残していた可能性もあります。

それにしても、66歳というのはアメリカ人が楽しみにしている「ソーシャル・セキュリティ」つまり公的年金の標準支給開始年齢です。そこまでたどり着いた人間が、そこで悲観するというのは、何か特殊な事情があるのかもしれません。

もしかしたら「家屋評価士」という仕事が正社員の専門職ではなく、契約ベースの自営業であって、毎年の確定申告を過小にやっていたために公的年金への積立が十分でなかったなど、66歳時点で「老後への悲観」をしたのかもしれません。

いずれにしても、衝撃的な事件です。渦中のバーニー・サンダース議員は、直後に上院で演説して遺憾の意を表明しています。下院民主党のペロシ院内総務も同様です。一方で、トランプ大統領もすぐにテレビ演説を行いました。

【参考記事】放言止まらないトランプが歩む自滅への道

事件を受けて、2011年に同じように銃撃されて奇跡的に一命を取り留めたガブリエレ・ギフォード元下院議員は、彼女の手がけている銃規制運動の一環として、銃規制のメッセージを発信しています。ですが、今回の事件は「銃容認派の共和党が被害者」で「銃規制派の民主党支持者が加害者」という構図に「はまって」しまっており、銃規制推進の文脈にはつながりそうもありません。

まだ直後の時点ですから、今後この事件がどう展開していくか分かりませんが、とりあえず民主党の側では、「トランプ弾劾へ」という追及の勢いは当分の間「しぼみ」そうな情勢です。反対に共和党や大統領の周辺からは、「被害者の正義」という立ち位置を得たようなニュアンスが感じられます。

一方で、そうした微妙な空気に抗するかのように、ムラ―特別検察官の周囲からは「大統領も捜査対象」だというリークが出ているようで、トランプ政権の周囲では難しい駆け引きが続いているのも事実です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story