コラム

トランプ「新中東政策」をどう評価するか?

2017年05月25日(木)15時00分

初外遊先のサウジアラビアで演説し、過激主義排除に向けてイスラム諸国の連携を求めたトランプ Jonathan Ernst-REUTERS

<イランを敵視する一方、安定政権であれば独裁者も認める――旧来からの共和党政権の外交を継承するトランプの「孤立主義」>

ドナルド・トランプ米大統領は、就任後の最初の外国訪問先としてサウジアラビアを選びました。サウジを振り出しに、エルサレム、バチカン、さらにはブリュッセルのNATOとEU本部、そして最後にイタリアのタオルミナでのG7サミット参加という旅程ですが、その最初の訪問先に中東を選んだことになります。

サウジでトランプ大統領は、サルマン国王を中心に主としてスンニ派の「穏健イスラム諸国」の指導者を一同に集めて、トランプ政権としての「イスラム政策」について包括的なスピーチを行いました。

このスピーチ、なかなか威勢が良かっただけでなく、選挙戦当時の言動と比べるとだいぶ「リアリズム」に寄っていることもあり、国際社会としては基本的に歓迎しているようです。ですが、よく見ていくと「分かりにくさ」を感じます。全体を貫く思想と言いますか、一貫性が弱いのです。

【参考記事】どこが違う? トランプ・ロシア疑惑とウォーターゲート

まず、選挙戦を通じて叫んでいた「イスラム教徒は入国禁止」とか、「9.11のテロの背後にサウジアラビアの存在がある」といった、イスラム敵視世論に媚びた姿勢は、とりあえず影を潜めました。ですが、こうした過激な言動の背景には、支持者による「異文化とは交流したくない」「アメリカに危険を持ち込まないで欲しい」という拒絶や排除を中心とした感情論があったわけです。そうした感情論が、アメリカで消えたわけではありません。

またトランプ大統領としても、そうした排外志向と「決別」したわけでもないと思います。今回の演説がいかに現実的なものであっても、それで政権の性格が変わったという断定は難しいでしょう。現に入国禁止政策については、現在でも裁判所とのバトルが続いているからです。

次に、ISIS(自称イスラム国)を中心とした過激主義を激しく敵視し、これに各国の協力を訴えた部分については、「テロはイスラムではない」というブッシュ、オバマ両政権の姿勢を継承しているように見えます。ですが、入国禁止政策、移民排除政策を続けている一方で、こうした発言を行っても説得力は限られてしまいます。

一方で、トランプ大統領には、イスラム諸国に対して「安定してくれればいい」という姿勢、つまり「民主主義を普及」させることには「関心がない」という態度が見えます。これは、イラクの民主化を志向したブッシュ、アラブの春に中途半端な理解を示したオバマとは一線を画したものと言えます。エジプトのシシ大統領のように、クーデターで権力を掌握して以来、選挙の洗礼を受けていない政権も「安定しているのならそれでいい」という立場です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story