コラム

シリア情勢、北朝鮮情勢に対して米世論が冷静な理由

2017年04月11日(火)15時00分

もう一つ、ロシアとの関係では、イタリアでのG7外相会議でティラーソン国務長官とロシアのラブロフ外相の会談が行われるのに続き、そのティラーソン長官がモスクワを訪問する予定を「キャンセルしていない」ことがあります。本稿の時点では、ティラーソン長官とプーチン大統領の会談が行われる見通しから、全体として米ロ関係が危険なほど悪化することは「なさそうだ」という見方が広がっています。

米ロ関係が大破綻に陥らないというのは、別に悪いニュースではありません。ですが、その一方で、「空爆は一回限りのもので、アメリカはアサド政権を政権交代に追い込むことはできないだろうし、しないだろう」という見方が出てきています。

もっと言えば、トランプは「空爆をしたことで、オバマとは違う果断なリーダーシップを見せつけた」つもりかもしれませんが、反対に今回の空爆が「これ以上のことは不可能だし、する気もない」ことを明らかにした一面もあります。

一部には、今回の空爆に反対した「アメリカ・ファースト」主義者のスティーブン・バノン首席戦略官の影響力が低下しているという報道があります。それは事実かもしれませんが、一方で、今回の空爆という行動が起こした後の現在も、依然としてトランプのアメリカが「グローバルな世界とは距離を置き、アメリカのことだけを考えて閉じこもっている」という点では、そんなに変化していないのかもしれません。

【参考記事】シリア攻撃 トランプ政権の危険なミリタリズム

例えば、ティラーソン国務長官は「シリア空爆は北朝鮮へのメッセージだ」というようなことを「わざわざ説明して」います。そのようなメッセージ性というのは、言わなくても伝わるものであって、それを「わざわざ口に出して言う」ということ自体が、空爆という行動が国際社会に与えたインパクトが速やかに薄れつつあることの証明だとも言えます。

北朝鮮に関しても同様です。これは推測の域を出ませんが、フロリダにおける米中首脳会談では、北朝鮮に対する「現状の枠組みは維持」しながら、「これ以上の核開発をさせない」ように最大限の政治的圧力をかけることで、相当のレベルで米中が合意したように見えます。仮にそうであれば、空母打撃群の行動も抑止目的に限定されたものであり、アメリカの世論としては「すぐに危機が到来するものではない」という感触なのでしょう。

米軍のシリア空軍基地への空爆は、衝撃的な軍事行動でした。ですが、週明けのアメリカの世論は極めて平静です。そのこと自体は、例えばシリアという国、あるいはシリア人に対する無責任な側面はあるものの、アメリカの世論としては「トランプ政権がこれ以上の危険な賭けに出ることはなさそう」だと見ている、そう判断して構わないと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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