コラム

バイデン「日本憲法は我々が書いた」発言をどう理解すればいいか

2016年08月18日(木)17時00分

 私は違うと思います。今回の「暴言」は、民主党の日本観の中にある「古い」部分が露出してしまった、それ以上でも以下でもないからです。

 アメリカの民主党は、フランクリン・D・ルーズベルトとハリー・トルーマンの党であり、第二次大戦で日本と戦い、降伏に追い込んで戦後改革を進めた党です。このため、日本に対して「従順な少年のように扱う」スタンスが長く続いたのは事実です。

 このバイデン発言について言えば、「子供の時に学校で習ったのを真面目に覚えていた」というより、戦後の政治的な風土の中で残っていた「古い日本観」が飛び出してしまったというのが実際のところでしょう。

 ですが、この感覚は現在のアメリカの世論や、民主党内にはほとんど残っていません。ヒラリーの日本観については、一昨年に刊行された自伝『困難な選択(Hard Choices)』にも書かれていますが、アジアの中で最も重要なパートナーであり、価値観を共有する国だという認識です。

【参考記事】アメリカの外交政策で攻守交代が起きた

 何よりも、今年5月の広島訪問に際してオバマ大統領が見せた、日本ならびに日本人への敬意は、現代の民主党のアジア戦略と重なる形で深化した日本観の具体化だと考えて良いと思います。

 また、日本文化への関心と尊敬は、初夏に大ブームとなった「ポケモンGO」現象でも明らかなように、アメリカではまったく衰えることはありません。そして、このような「ポケモン世代」というのは「アメリカの持つマッチョな善悪二元論」には距離を置き、日本的な「価値相対主義」や「多文化主義」「複雑系の社会観」を身につけた新世代だと思います。

 こうした新世代のカルチャーの受け皿となっているのは、政治的には民主党であり、共和党ではありません。ですから、今回のバイデン発言を受けて、「アメリカの民主党は日本を見下している」とか「ヒラリー政権は日本軽視だろう」などという心配をする必要はないと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story