コラム

ピート・ローズの愚痴をスルーしたイチロー選手の「選球眼」

2016年06月23日(木)15時50分

 イチローのボスであるマーリンズのドン・マッティングリー監督は、「わたしは日本の投手の水準が完全にメジャーレベルだということを知っている。だから、その日本の投手陣から打ったヒット数の価値は十分にある」という言い方をしています。これは、決して「身びいき」の発言ではないと思います。

【参考記事】イチロー選手に迫る「包囲網」

 ただ今回の「記録騒動」、そしてすでに「あと17本」に迫った「メジャー3000本達成」を前にしてイチロー選手の評価はジワジワと上昇していますが、それはローズ発言の反動だけではありません。42歳をむかえたイチロー選手の、特に今シーズンの野球に取り組む姿勢に対して、全米の野球ファンがあらためて注目しているのです。

 年齢を感じさせない打撃、守備、走塁、そしてそうしたパフォーマンスと体型を維持するための「極めてハイレベルの自己管理」をしていると思われること、加えて「第四の外野手」としてレギュラーポジションを与えられていないながらも、準備を怠らず、自分の役目を果たしている姿勢、そのすべてが全米の野球ファンに畏敬の念を起こさせているのです。

 はるか昔のことですが、私はシアトル時代のイチロー選手が「日本からのプレッシャー」で「安打数を伸ばす」ことを宿命付けられており、そのために出塁率が犠牲なっていることを残念に思っていました。またそのことを理由に、将来の「殿堂入り投票」では「一発」はあっても「満票には程遠い」という見通しを持っていたのも事実です。

 ですが、今シーズンのイチロー選手は違います。静かなオーラを放つその姿は、すでに「レジェンド」のレベルになっていますし、もしかすると将来の「殿堂入り資格1年目」の投票では限りなく満票に近い(アメリカの野球記者には個性的な人が多いので、100%は事実上不可能ですが)票を獲得するのではと思わせる凄みがあります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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