コラム

「夫婦別姓議論」に時間をかける余裕はない

2015年12月17日(木)16時30分

「改革のスピード」という点では、政府が今月3日、小泉政権時代の2003年に設定した「社会のあらゆる分野で20年までに、指導的地位のうち女性が占める割合を30%程度」にするという目標を「事実上断念」したニュースが思い起こされます。

「30%というのは実現不可能」なので、20年度末までに国家公務員の「本省課長級に占める女性の割合を7%」とするなど現実的な数値目標を盛り込んだそうです。

 女性の地位向上は、夫婦別姓に関する価値観論争よりもっと単純な問題です。「30%」を本気で実現しようと思うなら、新卒一括採用と年功序列、終身雇用をやめて、社会の全体、あるいは世界中からの登用でもいいので、「本省課長級の公募」をすればいいのです。本気で公募すれば、各省庁の課長級の職務に耐えうる女性の人材を採用する事はできるでしょう。

 もちろん「できない」理由はいくらでも挙げられます。ですが、2003年に「2020年に30%にする」と設定したのであれば、それに合わせて新卒でも中途でも、優秀な女性を囲い込むぐらいの努力をすればいいのです。例えば新規採用の7割を女性にして、昇進昇格も男性よりハイスピードにして、管理職に仕立てるための「猛烈な訓練をする」とか、そうでなければ前述のように「世界から公募して課長級以上の管理職の30%を女性にする」しかなかったはずです。

 それを適当に流しておいて、気がついたら「できませんでした」というのは、最初から改革をする気がなかったというのと同じです。夫婦別姓の問題も、この「女性活躍の失敗」と同じようにスローな時間軸の中で埋没してしまうのではないかと危惧します。

 どうして夫婦別姓が必要なのか。それは「嫁入りして家長の姓に合わせる」という価値観が男尊女卑につながり、結果として家事や育児の共同分担が遅れ、非婚少子化を招いているという深刻な問題に重なっている――。だから改革が必要なのだと、少なくとも賛成派なら、そこまで真剣に考えて、堂々と改革への論争を仕掛けるべきではないかと思います。

 女性管理職の「30%」を掲げて12年経って「できませんでした」という旧世代の影響力が細るまで、「夫婦別姓」の実現には時間をかける、そんなことでは改革は遅すぎるでしょう。

 今回の合憲判決を一つの契機として、「同姓は不便だから」という腰の引けた論争ではなく、男女の本質的な平等と、家事・育児・家庭教育参加への共同参画を問う「価値観論争」という正面からの問いかけをして、改革のスピードアップを図るべきではないでしょうか。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story