コラム

とうとうグローバル市場に解き放たれた、「郵貯」と「簡保」の巨大マネー

2015年11月04日(水)15時10分

 しかし「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」は金融機関であり、それぞれに日本でトップの巨大銀行、生保です。官営時代の名残りがあるにしても巨大な契約高と資金量を誇る中で、大変な資産価値があります。

 そこで、「ゆうちょ」と「かんぽ」という巨大金融機関が、それぞれ単体でも上場していれば、それぞれの企業価値は上場で大きくなり、その大株主である「日本郵政」の価値も大きくなるわけです。そこで「日本郵政」も上場させれば、その大きくなった価値を市場に評価されてそこでも巨額の資金を集めることが可能になります。

 これは、非常に大ざっぱなストーリーで、他にも色々な理由が加わることで、とにかく「日本郵政」、「ゆうちょ」、「かんぽ」の同時上場というのが全体の企業価値を高め、株の売り出しによる収入を最大化することになる、それが「親子上場」という判断がされた理由だと思います。

 そこには「別の目的」もあると思います。特に「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」については、上場することで否が応でもグローバルな金融市場に組み込まれていくことになります。その結果として、元来は極めてリスクを嫌う種類である巨大なマネーの塊が、間接的にではありますが、多くの民間の事業会社の資金として回っていくことになります。

 当面は、投資の妙味が薄いことから外国からの投資は少ないだろうというのが事前の「触れ込み」でしたが、上場してしまえば、そんな保証はありません。結果的にこの3社、特に金融2社については、グローバルな出資を受けることで、その投資先についてもグローバルな金融市場にリンクしていくことになると思います。

 そうなれば、日本人の個人金融資産の巨大な塊が、元来はリスク選好型のマネーではないにも関わらず、リスクを含んだグローバルな市場でグルグル回る事になります。同時に、日本円と心中するリスクは薄められるとも言えます。

 要するに、これで「郵便貯金+簡易保険」という、極端にリスクを嫌い、極端に地域通貨(日本円)の中に閉じこもっていた巨大な資金の塊が、民間事業への投資、そしてグローバルな金融市場の中へとようやく入っていき、その上で「リスクを取れないというリスク」の呪縛から自由になることができます。これが、郵政3社の上場の究極の目的だと言えるでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story