コラム

2020東京五輪の「テーマ」はどうして知られていないのか?

2014年08月05日(火)11時11分

 具体的には、スイスのローザンヌにあるIOCが中心となって設立したスポーツマネジメント大学院 (International Academy of Sports Science and Technology : AISTS)と筑波大学が連携協定を締結し、「つくば国際スポーツアカデミー(Tsukuba International Academy for Sport Studies、略称 TIAS)」を開設するということになったのです。その締結式と、記念シンポジウムが先月、東京国際フォーラムで行われました。

 この TIAS ですが、単なる予算を消化するための研究所でもなければ、期間限定のプロジェクトでもありません。本当に筑波大学が AISTS との提携で専門大学院を開設して、国際的な人材を集めて修士号を出すのです。内容も、ヨーロッパにおける最先端のスポーツ経営学と、日本文化、例えば「柔道の父」嘉納治五郎の思想研究などを融合した意欲的なものです。

 また、この(2)だけでなく、(1)の途上国への「体育教育」の輸出であるとか、(3)のアンチ・ドーピング活動実務の普及といった政策は、どれも大変に「地に足のついた」ものであり、IOCが高く評価したというのも納得ができました。この締結式でも、来日していた AISTS の幹部から、この「スポーツ・フォー・トゥモロー」を高く評価するコメントがありましたが、決して外交辞令ではなかったと思います。

 では、この「スポーツ・フォー・トゥモロー」というのは、素晴らしい政策なのでしょうか? もちろん、いいことですしドンドン進めるべきだと思います。ですが、私は同時に「違和感」も感じるのです。

 それはこの「スポーツ・フォー・トゥモロー」という政策が日本国内でほぼ全く知られていないからです。知られていないだけでなく、個々の政策が現時点では日本国内には余り恩恵にはならないのです。

 この日のシンポジウムでは、英ラフバラー大学のイアン・ヘンリー教授が基調講演を行っていました。ヘンリー教授は、イギリスのオリンピック運動における中心的な人物ですが、2012年のロンドン五輪の「レガシー(遺産)」について、計画、実施、そして遺された意味という順序で詳しく説明していました。

 ロンドン五輪においては、市内の格差是正、具体的には貧困地域の経済底上げ策や、大会をターゲットとしたイギリス全国における若者のスポーツ振興、そして開催国としてのメダル獲得という政策を全体として整合性のあるような形で、練り上げて実施したというのです。ヘンリー教授は、そうした国内向けの施策という点では、2020年の東京五輪に関しては「遅れ」を感じるという警告をしていました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EUはトランプ関税に屈服せず 対抗措置も検討=貿易

ビジネス

富士フ、印タタ・グループ傘下企業と提携 半導体材料

ビジネス

ノジマ、26年3月期は増収増益予想 買収のVAIO

ワールド

インドがパキスタンの「テロ拠点」攻撃、8人死亡 イ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story