コラム

変質する「航空会社のマイレージ・サービス」その背景は?

2014年02月27日(木)12時31分

 ですが、そのウラには更に別の2つの事情があるようです。一つには、米系の場合ですが、昨年のアメリカン航空とUSエアウェイズの合併により、国際線を含めた巨大な路線網を擁する「大手キャリア」は3社に統合されたのですが、各社ともにエリート資格制度を中心とした「ブランドへのロイヤリティ(忠誠心)」がかなり浸透しています。つまり「大手に乗る人は他社に浮気はしない」という「囲い込み」が相当に進んでいるわけです。ですから、「支払金額」でエリート資格や無料航空券付与を行うという「不利益変更」をやっても顧客は「ついて来るだろう」という判断があるのだと思われます。

 もう一つはアメリカを中心とした「航空券の高騰」の固定化という問題があります。2001年の9・11テロでの需要の落ち込み、更にはリーマン・ショックなどもあり、米系の大手は90年代と比較するとフライトの便数も座席数も抑制気味となっています。そうした需要と供給のバランス、また3社寡占という状況、更には原油価格の高騰という要素も加わって、航空券は高値安定が続いているわけです。

 例えば、年間10万マイル乗るという「上級エリート会員」になるのは、長距離の海外出張を年間6回も7回もこなしていないと維持できないわけですが、これに「年間1万ドル」という条件が加わるというのは、要するにニューヨーク・東京の往復について「平均1300ドル程度」払って欲しいということになるわけです。実は現在のチケット相場からすると、それほど「難はない」レベルの設定なのですが、良く考えてみれば2000年代まではニューヨーク・東京は閑散期で700ドルぐらいであったわけですから、あくまで「現在の高い価格水準」が前提になっているというわけです。

 今回のエリート資格付与の条件にしても、そうした「高値安定」が前提となった設定となっていると考えられます。では、米系の航空会社は苦しい経営が続いているのかというと、現在は各社ともに経営は安定しているわけです。そんな中で、顧客への「囲い込み」を強化してより経営を安定させようという動き、今回のデルタの判断については、そのように見ることが可能です。

 では、乗客としてはLCCに移ればいいのでしょうか? 残念ながらアメリカのLCCも悪天候時のキャンセル条件など、サービスについては大手と比較すると問題が多くビジネス向きではありません。これからは、ボーイング787や737−900の就航が増え、エアバスの新型A350もデビューしますし、燃費の良い航空機がどんどん出てきます。大手よりはリーズナブルな価格で、LCCよりはサービスの安定しているキャリアが出てきて、長距離国内線や国際線をドンドン飛ばす、そんな形で「燃費向上の乗客への還元」を図って欲しいものです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story