コラム

支持率調査のグラフに見る政治の「困難」とは?

2011年12月16日(金)12時39分

 野田内閣の支持率が低下し、不支持の方が上回ったという報道が今週の前半に流れました。解説としてはTPPや消費税などの問題が影響しているという意見が多いのですが、グラフを見ると、そうとも言えないようです。TPPや消費税が原因であるのなら、10月から11月にかけて急落しているはずですが、決してそうではないのです。

 支持率のグラフは、NHKやJNNなどの報道機関の示しているところによれば、9月の政権発足当時には60%だった支持率が12月には37%に低下、同じく不支持が18%から42%に上昇(数字はNHK)しているのですが、そのどちらのグラフも直線なのです。勿論、調査の間隔が空いているので、正確に直線というのは単純すぎる分析になりますが、少なくとも9月、10月、11月、12月の4回の結果を並べてみると、ほとんど直線的上にプロットできるのは確かです。

 ということは、内閣支持率はTPP反対とか消費税アップ反対といった個別の政策における民意を反映しているのではなく、漠然と新任時には「新鮮な期待感」があり、時間が経過すると「自然に不人気になる」という流れがある、今回の野田内閣の場合はまさにそうした経過をたどっているということになります。

 ちなみに、前任の菅内閣の場合は2010年の6月に鳩山内閣から継承した際にはマイナスで、それが9月の代表選で小沢氏を破った時点で支持率が急上昇していますが、実質的には政権としてはそこがスタートだとすれば、やはりその後は低下の一方でした。ただ、直線にならなかったのは、震災後の期間、低い支持率で粘り続けた停滞の期間が長かったからです。更に、その前の鳩山政権の場合は、75%でスタートし24%で退任ということで角度は急でしたが、そのグラフはやはり直線でした。

 アメリカのオバマ政権の場合は確かに発足当初は「鳩山タイプの急落」でしたが、その後まず2011年の年初に「与野党の妥協に漕ぎつけて減税継続を決定」した時点で支持率が急上昇、更に5月のオサマ・ビンラディン発見・殺害時には保守の支持を拡大して支持率を上げています。その後は数字的には再度の低迷期にあるのですが、ここ数週間は景気に薄日が差してきたということから、再び上昇の気配を見せています。

 つまり、日本の過去3代の首相は、就任時がピークで以降は直線的に支持率が下がるだけ、一方でオバマ大統領の場合は、政策や政治経済の情勢を受けて世論が支持率という形として反応しているわけです。前任のブッシュの場合も乱高下しましたし、クリントンに至っては、モニカ・スキャンダルなどの危機を乗り越えて任期満了に向かって支持率を上昇させるなど、波乱万丈の支持率グラフを残しての退任となっています。

 では、日本の首相はアメリカの大統領に比べて著しく能力が劣るのでしょうか? 勿論、2年近い予備選と本選という「テスト期間」を経て就任するアメリカ大統領のほうが「ハズレ」がないということは言えるし、政党内の「政局」に勝つ能力と「トップとしての判断+世論との直接対話」とのミスマッチということもあるのでしょう。

 ですが、それにしても、この一直線の降下というのは何なのでしょう? 多少なりともジグザグしても良さそうなのに、何とも不気味です。1つの解説は、日本の国が直面しているのは「極めて複雑な困難さ」であり、その「困難さの塊」に負けて前任者がカリスマをボロボロにした一方で、新政権ができるとその「困難さの塊」を「何とかしてくれる」と期待してしまう、だが時間と共にその期待は裏切られる・・・その繰り返しということなのかもしれません。

 そういう言い方をすると、まるで日本という国とその世論が「困難さの塊」を前にして立ちすくんでいるような印象を受けます。政治の停滞はその反映であるとも。ですが、そこまで悲観する前に、できることはあるはずです。

 何回かこの欄でも申し上げていますが、世論調査の聞き方を工夫できないものでしょうか? 例えば、政策と首相の判断についてですが、消費税についてなら、
(1)消費税率アップに反対、財源は歳出カットで。
(2)消費税率アップに反対、財源は所得増税で。
(3)消費税率アップに反対、財源は景気回復による税収増で。そのための先行投資も支持。
 という3つに関しては、同じ反対でも全くの別意見と言って良いいわけです。そういう聞き方をしないでおいて、まず賛否を問うても責任ある回答は得られないわけです。世論が気分に左右されているのではなく、わざわざ気分が表面化するような聞き方ばかりがされている、そんな懸念を感じます。

もっと言えば、個別の政策への支持・不支持と内閣や野党執行部への支持をマトリックス化して集計で出すようにすべきです。そうではなくて、漠然と支持・不支持を問うから、支持理由のトップが「他に適当な人がいないから」とか「何となく」という意味不明の選択肢が浮上してみたりするのです。不支持に関しても、「政策に期待できないから」というような抽象的な理由を選ばせてみても、何にもならないと思うのです。

 アメリカの大統領制と比較すると、日本の議院内閣制というのは任期中での総辞職や不信任、解散という形で間接的にも直接的にも民意が反映できるシステムなのです。そのシステムを生かすも殺すも、支持・不支持と政策論を絡めるような形での世論調査や報道姿勢にかかっているのではないかと思います。それも、単に同時に聞けばいいというものではないのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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