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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
福島県復興のための実行項目とは何か?
菅総理が「福島復興委員会」という会議の設置を提唱しているという報道がありました。
重要な提案だと思います。
「一体いくつ会議を作るんだ?」という批判も多いようですが、この問題だけは別です。他の会議、他の復興計画とは違って、直近の実務的な問題に前例のない重たい判断を要求されるからです。
問題は3つあります。この3点について、厳密に計画をすると共に日々変化する状況を受けて、計画を実行する一方で、最適になるように改訂し続け、その全体を常にオープンにし続けなくてはならないと考えます。
1つ目は同心円避難区域についての判断です。
福島県が今苦しんでいる最大の問題です。苦しんでいるというのは勿論多くの人々が不自由な避難生活を余儀なくされていることもありますが、これに加えて先の見通しのつかない苦しさという問題があるわけです。首相周辺からの「20年は戻れない」という言葉が独り歩きする一方で、それが一方的な批判を浴びたりするのは、この住民の苦しさを反映したものだと思います。
この「先の見通しが立たない」ことを受けて、東電は工程表なるものを発表しました。原子炉と使用済燃料プールを含めて、事態の収束へ向けて「ステップ1」「ステップ2」そして「中期的対応」の3段階に分けた計画が書かれています。この「ステップ1」が完了すればある程度安全に、そして「ステップ2」に到達すればより安定した状況になるとして「ステップ1」には約3カ月、「ステップ3」については約6~9カ月が見込まれるという発表になっています。また海江田万里経産相は、「ステップ1」が完了した後に、住宅地等の線量測定を行って帰宅の可否を決定すると表明しています。
私はこの方針の基本的な考え方は間違っていないと思いますが、発表が分かりにくいのは問題だと思います。まず工程表なるものは単純に過ぎます。この工程表を状況に応じて改訂するのも分かりにくいと思います。「ステップ1」「ステップ2」の2段階も曖昧です。そんな言い方ではなく、まず「爆発の可能性をゼロにする」ことが目標、次に「沸騰などによる大気中への新たな放射線物質の放出をゼロにする」ことが目標だ、つまり「爆発可能性ゼロ」「放出ストップ」という2段階の目標がある、そうハッキリ宣言すべきだと思います。
その上で「3つの原子炉と4つの燃料プール」の全てにおいて「爆発可能性ゼロ」の認定に到達した時点で、「同心円避難区域」を段階的に解除すべきだと思います。同心円避難区域というのは水蒸気爆発(恐らくその可能性はほぼゼロになっていると思われます)もしくは水素爆発(こちらはまだゼロではありません)による大量の放射性物質飛散を警戒し、その際の風向風速を予想するのが難しいことから同心円で実施されているものであり、爆発の危険が去ったら外側から解除することになる、そう宣言すべきと思います。
その上で、線量測定結果に基づいて今回の30キロ圏での「計画避難区域設定」と同じように、10キロ以上20キロ以下のエリアでも、線量の高いところは一時帰宅は認めた上で避難体制を継続することになると思います。
2つ目は除染です。
東電の言う「ステップ2」と定義が一致するかは分かりませんが、大気中への新たな放出がストップできた、つまり最も時間のかかった炉またはプールから放射性物質の放出が止められたという時点で、速やかに除染がスタートするようにすべきです。除染には2種類あります。
まず、その地域の大気中の放射線量を減らすために、3月の爆発時に降下したと思われる放射性物質を建築物の外面、あるいは道路や住宅地の表面から除去するということです。ヨウ素131の場合は8日で半減しますが、セシウム137は30年、ストロンチウム90は29年と半減期が長いので、効果的な除染が必要になるし、また除染しないと場所によっては「住めない」ということになります。したがって、同心円ではなく線量の問題で帰宅のできなかった地域への帰宅を進めるには除染が必要になるわけです。
もう1つは土壌の入換えです。これについては、大きな作業になりコストも労力もかかるわけですが、線量の高い地域では、農産物の作付けを再開するためには必要です。こちらも、とにかく「放出ストップ」が確認され、空気中の線量が減った時点で日程を決めて実行することになります。そのために、今からどのような順位でどのように実施するか、計画を立てなくてはなりません。
3つ目は、安全基準の問題です。
居住の安全基準、作付の安全基準、酪農の安全基準について、曖昧な政府の決定では説得力が十分ではない懸念が残ります。あくまで人類史上に残る事件としてIAEA並びにWHOの基準を厳密に適用してゆくべきであり、そのような運用がされた前例として残すべきです。安全基準のないジャンルに関しては、国際基準を作ってもらうことも必要です。こうした点については、今後、IAEAの閣僚級会合、原子力問題サミットなど、大きなチャンスはいくつかありますから、そこでしっかり提案していくべきです。
国際基準を適用するというのは、単なる数値のガイドラインだけではありません。線量の測定方法などのプロシージャー(手続き)も国際基準に即して行うべきです。また必要に応じて国際機関の調査や助言を仰ぐべきですし、場合によっては査察を受けることも必要と思います。例えば、今でも問題を引きずっている飯舘村の問題も、3月18日前後にIAEAがこの地域の高線量を指摘した時点ですぐに動いていれば、問題がこじれることはなかったのではと思います。
また除染の作業そのものに関しても、技術力に問題があるのであれば、米仏をはじめとした各国の協力を仰いだり、国際機関の助言を求めるということは排除すべきではありません。
以上の3点ですが、これでは復興計画とは言えないではないか、そのような批判があるのは当然だと思います。宮城や岩手は町づくりや新たな農林水産業の計画など壮大なことを考え始めているのに、福島はいつまでも避難や帰宅、線量計測に除染などという「地味な」作業に追われ、しかもそのメドも立っていない、そうした怒りもあると思います。ですが、3つの炉と4つのプールを相手にして作業が続く現在、どうしてもこうしたプロセスを経なくては先へ進めないのです。
このプロセスを透明性をもって、また事実に基づいて冷静に進める中で、中長期の展望は開けてくるのだと思います。また、その透明性・客観性が確保されることが、風評問題に対する最大の対策になると思います。特に安全基準を国際基準に合わせ、国際機関の協力やチェックを受けて安全性の確認を行うことは、県内外の不安感情に対する最大の対策になると思います。
アメリカの新聞では、飯舘村の問題をはじめとして福島県というコミュニティが、どのように苦しんでいるかを、人々の肉声を紹介しながら詳しく報道しています。厳しい現実が続きますが、世界中の関心が集まっています。何としても復興を進めてゆかねばなりませんし、そのためには透明で冷静な対応、そして国際基準によるオーソライズのプロセスが必要と思います。
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