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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
JAL更生法適用に思う改革の遅れ
騒ぎの続いたJALの再建問題ですが、最終的に更生法適用ということになったようです。航空会社が更生法を使って再建を果たすというのは、アメリカでは日常茶飯事ですから余り驚きはありませんが、やはり時代の流れを感じます。一言で言えば、航空ビジネスというのもが、何か「雲の上の産業」であった時代が終わり、ビジネスライクな運輸業の1つとして「当たり前」の存在になってゆくということだと思います。
その「雲の上の産業」というのは、例えば国会議員や首長が往復100万円を超えるファーストクラスで出張して、それが丸々売り上げになるとか、他の運輸業や接客業に比べて人材観やサービスの細かな部分が大袈裟だったりという「異常さ」があったということです。アメリカの場合は、各社が破綻を繰り返す中でそうした業界特有の「雲の上」的な性格は消えていきました。JALの再生もそうした方向性になるのだと思います。
勿論、航空会社が「普通の会社」になっていくとしても、安全管理の水準だけは妥協すべきではないと思います。パイロットや整備士の士気と人材の質は、やはり航空会社の信頼の要だからです。
今回の更生法適用への流れですが、私が違和感を感じたのは政府の姿勢がコロコロ変わる中で、株主が翻弄されたことです。事実上債務超過になっているにも関わらず「政府の支援がありそうだ」という報道や、株主優待券を受け取る権利があることなどから株価が67円を維持していたのも異様なら、それが更生法適用に傾くと売り一色になって暴落したのですが、まともな訴訟社会だったら政府の一連の言動は株主訴訟に耐えられないのではないかと思います。
債務超過という厳然たる事実を前にして、市場に判断を委ねるのではなく、中途半端に政府が保証してみたり突き放してみたりというのは、余りに稚拙です。「日本式」感覚では「正式発表」以外の政府高官の言動や、結論めいた報道を許すような情報リークについては一切法的責任は問われないのかもしれませんが、世界標準からすれば「ダメ」だと思います。
もう1つは、値幅制限とストップ安の問題です。価値がゼロに近い株券が67円をつけていたのも問題ですが、一斉に売りが出て売買の折り合うポイントがない、すると値幅制限一杯の30円安で比例配分して市場を閉めることになるのですが、そうすると火曜日の終値の37円というのもフィクション以外の何物でもありません。
また火曜日に37円で売れた人は「良かった」ということになるのでしょうが、本当は2円とか5円で買えるはずの人が37円で買わされたという側面もあるわけですし、何よりも実態は限りなく価値がゼロの株が37円という株価で残っているというフィクションで一晩越したのは異常です。結果的に翌日には株価は7円で寄りつきましたが、これも値幅制限があるので7円未満には下がらないのです。
その値幅制限にしても、67円からの30円安は45%ダウンですが、37円から7円の30円安は82%ダウンと率では大きく違います。規制といっても、その計算方法は形式的で根拠はほとんどありません。
こうした悪しき規制を段階的に廃止し、投資家も市場も実態に即した迅速な取引ができるような「規制緩和」は、ハゲタカ優遇でも、外資の手先でもないのです。にも関わらず、他の問題と一緒になってこうした市場そのものの規制緩和も停滞しています。
これは、自民党政権が規制緩和を進める一方で、そうした自由な市場に参加できる「リスクを理解し、リスクを取れる」社会を作って来なかったからだと思います。生存権や個の尊厳に関わる雇用や福祉には政府の責任ある保護が求められますが、市場を中心とした金融システムについては「規制緩和」を通じた強化はやはり必要だと思います。そうでなくては、投資家にしても事業会社にしてもグローバリゼーションの中で敗北を重ねるだけだからです。
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