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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
テッド・ケネディの死で医療保険改革はどうなる?
26日(水曜日)の未明に、長く悪性脳腫瘍を患っていた、「テッド」ことエドワード・ケネディ上院議員の訃報が一斉に伝えられました。早朝からニュース各局はこの話題一色になりました。私は、偶然、同氏の「地元」であるマサチューセッツ州に来ているのですが、訃報の直後から大学も一般の商店なども一斉に半旗を掲げて弔意を表していました。
死去の翌日にボストンに入ったのですが、州を横断する高速道路の「マスパイク」では電光掲示板に「州民よりテッドに感謝」という文字が表示されていましたし、地元のラジオは「棺への一般の拝礼」に参加する方法を繰り返し伝えていました。どこへ行っても半旗です。中でも、マクドナルドやガソリンスタンド、ホリデイ・インなどの庶民的なホテルに掲げられた半旗を見ると、草の根に愛された「テッド」の面影が浮かぶのを感じます。
27日の午後に「テッド」の棺は、海辺の自宅からボストン市内の教会に移されたのですが、ボストンでは3大ネットワークが延々と霊柩車をヘリで追っていましたし、CNNやFOXニュースなどのケーブル局は全国中継していたようです。ボストンのTVはそれこそ、「テッド」一色で、とにかく一般市民が泣きながら彼の思い出を語るといったテンションの高い放送が延々と続いているのです。
このマサチューセッツ州民の敬愛ぶりを見ていますと、半世紀以上にわたってこの州の上院議員のイスを維持してきた「ケネディ王朝」はこれからも続くように思えてきますが、果たしてどうでしょうか? 中には故人の愛妻、ヴィッキー夫人の擁立であるとか、ケネディ家の若い世代に継承させるというようなアイディアもあるようですが、私は疑問に思います。
JFKからテッドに引き継がれた議席というのは、この兄弟のようなカリスマ性がなくては支えられないと思います。ケネディの名前だけを残しても、それは一家の「レガシー」にとってはマイナスではないでしょうか? 今回地元の「テッド追悼」の盛り上がりを見ていますと、私が感じるのは「3兄弟の中で、一番能力が低いと思われ、また数々のスキャンダルにまみれていたテッドだけが長い時間をかけて政治的業績を重ねた」という人生の不思議への感慨が人々にはあるように思います。
それは「テッドだけが枕の上で死ねた」という感慨です。凶弾に倒れた2人の兄は時代に短いながら鮮やかな軌跡を残して去りました。ですが、テッドはその後の長い時間を「兄2人の栄光」を背負いながら、時にはそれに負けてアルコールや女性の問題を起こしたりもしましたが、それでも長い人生のマラソンを走り続けて、アメリカ社会のために仕事をし、惜しまれつつ静かに逝去した、そこにある何とも言えない人生の味を感じているということです。
ところで、テッド・ケネディが最後まで気にかけていたのは、問題の医療保険改革、国民皆保険制度でした。この問題に関しては、正に国論が分裂しており、民主党議員団の中からも反対が出る異常事態となっています。政治評論家のデビット・ガーゲンはCNNで「改革への賛成、反対を見ていると、リベラルと保守というのはとても同じ人間とは思えなくなります」と言っていましたが、それほど対立は根深くなっています。
まずテッドの死により、民主党は「絶対多数の最低ライン」である60議席を割り込むという問題があります。この点に関しては実はウルトラCがあって、テッドは死の直前にマサチューセッツ州法を改訂して「自分が死んだ後にすぐに補選を行うのではなく、知事が暫定議員を指名できる」ように法律を戻すよう働きかけていました。その手続きはテッドの死に間に合ったのです。ですから、現在の民主党州政の下では「60議席目」は安泰なのです。
また、ガーゲンの言う「国論分裂」つまり「生きるのに必死な中産階級は自分の保険が不利に改訂されることを恐れる」一方で「無保険者とアメリカに無保険者がいるのはおかしいと思うリベラルは新制度を支持している」という「真っ二つ」の状態に関しても、テッドの「左右対立を中に入って調整し続けた足跡」がその死によって「伝説」となる中で、「死せるテッド、左右の対立を鎮める」というムードが生まれる可能性を指摘した声もあります。
この「死せるテッド・・・」という方は実際のところどうなるか、まだ未知数ですが「ひょっとすると、ひょっとする」かもしれない、本日の時点ではそう申し上げておくことにします。
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