コラム

アメリカの景気は日本と連動? それとも中国?

2009年08月19日(水)15時01分

 8月17日の月曜日は、NYダウが2%以上の下げを演じ、翌朝のNBC『トゥディ』では「再び天が落ちてくるような恐怖」という言い方がされていました。「天が落ちてく る」というのは何ともオーバーな表現ですが、夏場にかかってからのアメリカ株は堅調に上げてきているだけに、昨年秋以来の市場の「ローラーコースター」状況が再現されることへの恐怖感を感じるというのは、分からないでもありません。

 このアメリカ株の下げについて、前夜の中国の上海総合株価指数が5.8%の下げを記 録したこともあって、日本では「中国が下げたからアメリカも下げた」という見方が大勢を占めていたようです。ですが、実際に厳しい下げに見舞われた月曜日には、アメリカのメディアはCNNにしてもCNBCやブルームバーグなどの金融情報メディアにしても「日本の下げに引っぱられた」という解説がほとんどだったのです。正確に言うと、日本株の下げを誘った日本の4月~6月のGDP速報値のニュースが繰り返し報道されていました。プラスに転じたとはいえ、3.7%(年率換算)という低い数値に終わり、アナリ スト達のコンセンサスを下回ったというニュースです。

 勿論、翌火曜日のウォールストリート・ジャーナルのように「NYの株安は上海と東 京の下げを受けたもの」であると日本と中国を並列に扱うメディアもありましたし、BRICsびいきのCNBCのエリン・バーネットのように、この日も「中国経済はアメリカ経済の鏡(ミラー)」だと言っていたジャーナリストもいます。ですが、月曜の下げを見 ながらの各社の報道の全体としては「日本の下げがきっかけ」という言い方の方が多かったように思います。

 その背景には、中国経済の広義のインフラが未成熟だという認識があると思います。18日の火曜日の朝、ブルームバーグ・ラジオでは、外交問題評議会(Council on Foreign Relations)のシニア・フェローであるエリザベス・C・エコノミー女史が中国経済の現状に関してレポートしていましたが「中国経済の各指標数値の信憑性は低いと思います。国土が広い上に、各地方のボスには数値を改ざんすることに十分なインセンティブがあるからです」と述べて「私は中国の株にダイレクトに投資するのはリスキーだと思いますよ」とまで言っていました。

 エコノミー女史のような観点からは、やはりアメリカ景気の先行指標として中国株というのは「遠い」存在なのです。反対に日本というのはアメリカと同様の成熟社会であり、法制や文化まで含めたインフラや、自由な言論の結果としての世論に支えられた市場という意味で、東京が大きく下げればそのショックをダイレクトに感じる、NY市場にはそうした感覚が確かにあります。昨年秋以降の日本経済の低迷に関しても、「最先端の高付加価値製品に特化した産業構造ゆえの悲劇」という同情的な見方がされています。日本では何かにつけて「米中のG2体制」とか「中国の存在感」という言い方ばかりがされるようになっていますが、アメリカにとっての日本経済というのは今でも十分に大きな存在なのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ECBは利下げ余地ある、トランプ氏の政策機能ぜず=

ワールド

中国が南シナ海の鉄線礁を「統制下に」と主張、フィリ

ビジネス

TDK、26年3月期営業益予想は0.4%増 リスク

ビジネス

日経平均は4日続伸し一時3万6000円回復、米中摩
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 7
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 8
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story