Picture Power

【写真特集】相撲少女の情熱に魅せられた写真家の切なる願い

"Salt and Tears"

Photographs by Yulia Skogoreva

2023年10月27日(金)11時23分

「Scream」

<ロシア人写真家ユーリア・スコーゴレワが、信じる道をひたすらに進む相撲少女阿部ななを追った写真展「Salt and Tears」(東京・六本木のフジフイルム スクエア)。日本のジェンダー観や抗いがたい伝統の重みを押し返すかのような姿が心に響く>

新潟県新発田市の加治川相撲教室にある土俵で、屈強な男性たちに囲まれながら、ひとりの少女が大声で気合いを入れる。阿部ななには、トップアスリートの風格が漂う。写真家・ユーリア・スコーゴレワは、2019年9月の「わんぱく相撲女子全国大会」でななと出会い、相撲に情熱を燃やす彼女の強い意志に感銘を受けた。家族に支えられながら実績をあげ、ますます相撲に没頭していくななに、ユーリアは魅了されると同時に、日本の女子相撲の位置づけに不条理な一面も感じ始めた。

YS-02.jpg
「Nana's training, Niigata 2019」

ユーリアの祖国ロシアでも相撲競技が行われている。国技としての「大相撲」という特別な存在がないために、男女ともに相撲はスポーツとして、むしろ日本よりも、気軽に始められるという。競技生活を終えた選手たちには、成果に見合ったコーチなどのキャリアの道があるのも他のスポーツと同様だ。相撲といえば伝統の「大相撲」である日本では、特に女性にとっては競技を始めること自体のハードルが非常に高く、競技会も限られている。また、「大相撲」の土俵の「女人禁制」についてはたびたび議論になってきたが、女性には選手生活の先にプロの土俵に立つという選択肢はない。ユーリアは、これほどに相撲に打ち込み、成果を積むななに訪れる将来について、思いを巡らす。


YS-03.jpg
「The look」

10月7日に東京で行われた「世界ジュニア女子相撲選手権大会」で、初めて世界の舞台に挑んだななは団体戦で大将を務めて優勝、個人戦重量級では惜しくも準優勝となった。ななは、「これから頑張らなきゃ」と悔しさを胸に世界一を目指し邁進する。

写真展「Salt and Tears」には、相撲を愛し、自らが信じる道をひたすらに進むたくましい少女の美しさ、愛らしさ、そして日本社会が内包する複雑なジェンダー観や、抗いがたい伝統の重みまでも押し返すかのような頼もしさが溢れている。女子相撲の可能性をもっと広げたいーーそう願うユーリアのカメラは、ななの成長を追い続ける。


YS-04.jpg
「Victory, 2023」


YS-05.jpg
「Sakura and Salt, 2019」


Photographs by ©Yulia Skogoreva

写真展「Salt and Tears」ユーリア・スコーゴレワ)は、10月27日(金)から11月9日(木)まで、東京・六本木のフジフイルム スクエア(FUJIFILM SQUARE)で開催中。この作品は、2023年4月に行われたKyotographieのポートフォリオレビューでFUJIFILM AWARDを受賞。
Curated by Jean-Christophe Godet

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story