コラム

トランプでもトランプに投票した7000万人でもない、米大統領選の真の「敗者」とは

2020年11月10日(火)16時00分

magSR201110_Pakkun2.jpg

2000年の大統領選当時、フロリダ州で行われた再集計 ROBERT KING/GETTY IMAGES

それから急増したのが、かの有名な「投票抑制策」。分かりやすいのは、一方的な有権者登録の削除。された人は再登録しない限り投票ができない。実は例のフロリダ州務長官も2000年にやっていたが、今もよく見る手だ。例えば、ウィスコンシン州は昨年20万人以上の登録削除を発表したが、その多くは民主党支持者の多い地域に住む人で、黒人が白人の倍ほどの確率で削除対象となっていた。同じようなことが今年だけでペンシルベニア、ノースカロライナ、オハイオ、ジョージアなどでも問題になっている。これらの州の共通点は? はい、激戦州だ。ちょっとの差だけでも選挙結果が変わり得るところ。

また目立つのは、都市部の投票所や、投票に使う機械、投票所の職員数を減らす技。そうすると、必然的に投票の待ち時間が長くなり、都市部の票が減る。2012~18年の間に全国で1600カ所以上の投票所が閉鎖されたが、マイノリティーの多い郡では、閉鎖された数が白人の多い郡より平均で3倍以上多い。結果、2018年の中間選挙では、90%以上が白人住民の地域の待ち時間は平均で5分。90%以上有色人種の地域では32分。その差、6倍以上! 黒人1人が待っている間、白人のバレーボールチームが全員投票を済ませられる。

さらに、投票日は例年平日。仕事を休んで長時間並べない黒人の多くは日曜日に期日前投票をしていたが、オハイオやフロリダなどは日曜日の投票もなくした。隙がない!

もう一つの手段は投票所での写真付きの身分証明書提示の義務付け。例えば、運転免許は田舎に住んでいる人は持っていても、バスや電車を使う都市部の人の多くは持っていない。テキサス州では軍の証明書や銃保有ライセンスでもいいというが、学生証は駄目。

パターンは明白だ。共和党員に多い、田舎の人、軍人、銃を持つ人などは早く、簡単に投票できるが、民主党員に多い都市部の人、有色人種、貧困層や若者は、投票へのハードルが毎年高くなる。単純な作戦だがうまく進んでいる。秘密基地の人、絶対喜んでいるはず。白い猫も。

そこに今年は投票を抑制する最強の味方が現れた。それは新型コロナウイルス。マスクなしで密集し、大声を出す集会を見て分かるとおり、トランプの熱狂的な支持者はコロナを恐れない。事前調査で共和党支持者は民主党支持者の約2.5倍の割合で投票日に投票所に行くと答えている。それに対し、民主党員は圧倒的な割合で郵便投票を好んでいた。

ということで、共和党の州政府は郵便投票のハードルも上げる。投票日前に投函しても投票日以降に届いた郵便投票は無効にする、など(しかもトランプの側近が郵政公社長官に就き職員を減らすなどのコスト削減をもくろむ一方、大統領本人は「郵便投票制度が不可能になるように」、公社の補助金を拒否しようとした!)。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、金利据え置き インフレ巡る「進展の欠如」指

ビジネス

米3月求人件数848.8万件、約3年ぶり低水準 労

ビジネス

米ADP民間雇用、4月は19.2万人増 予想上回る

ビジネス

EXCLUSIVE-米シティ、融資で多額損失発生も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story