コラム

トランプでもトランプに投票した7000万人でもない、米大統領選の真の「敗者」とは

2020年11月10日(火)16時00分

magSR201110_Pakkun3.jpg

11月4日、ネバダ州選管の会見に突入したトランプ支持者 ETHAN MILLER/ GETTY IMAGES

郵送で間に合わない場合、投票箱に票を入れてもいいが、テキサス州知事は投票箱を郡に1つだけ設置することにした。テキサスの一番大きな郡は、東京23区の倍ぐらいの面積。だが、東京のように公共交通手段は発達していない。街は東西にも南北にも広いが、東西線も南北線もない。

それって本当に「勝ち」?

どの投票抑制策も、導入するときの共和党の口実は「不正投票防止!」だが、これはウソ。ニューヨーク大学の研究機関によると、不正な票の割合は高くても0.0025%しかない。郵便投票制度が導入されたオレゴン州ではその数字は0.00001%と、さらに下がる。僕が美少女コンテストで優勝する確率と同じぐらい。今はね。数年前ならいけたよ、僕。

投票抑制策の本当の理由はトランプが3月にばらしてくれた。投票をしやすくする民主党からの提案を受け入れて投票率が上がったら「この国で二度と共和党員は選挙で当選しないだろう」と語った。正直者!

民主党側は抑制策に対抗してよく提訴しているが、共和党の強い味方は共和党の判事。オハイオ州では「マイノリティーへ過度な負担となる」として日曜の投票廃止を止めた一審判決を、控訴裁判所が覆し、抑制策を維持した。アラバマ州ではコロナ対策として導入されたドライブスルー投票制度も裁判所で停止された。このような判決を300以上調査したところ、共和党員の州知事や大統領に任命された判事は80%の確率で投票を抑制する方に判決を下すというデータがある。やはり、チームメイトが審判をやると勝ちやすい!

そんな草野球以下のシステムを、共和党はさらに偏らせている。共和党多数の上院議会はバラク・オバマ前大統領が政権末期に任命した判事の承認を極力避けていたが、トランプ政権になると4年弱で最高裁で3人、連邦裁判所で200人以上と、猛ペースで判事を承認した。

その作戦の果実は数日以内に収穫できるかもしれない。2000年大統領選のとき、共和党大統領に任命された判事は「5人」だった。その数は今6人に増えている。そしてなんと!「5人」のうちの1人がまだ残っている上、あのときのブッシュ弁護団にいた3人がいま最高裁判事になっている。つまり、現役最高裁判事の4人がブッシュ大統領誕生劇に出演している。

実は、あの時のメンバーはもう1人いる。トランプの長年の相談役ロジャー・ストーンは「ブルックス・ブラザーズ暴動」の中の1人!『スター・ウォーズ』のように、昔の映画の続編に、高齢のオリジナルキャストが登場するのを見ている気分だ。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 8
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story