コラム

日本のコロナ対策は独特だけど、僕は希望を持ちたい(パックン)

2020年05月01日(金)13時45分

程度や形式はさまざまだが、武漢のモデルをまねした都市が多く、世界で3人に1人がロックダウン中という試算もある。例えば、イギリスでは罰金付きの厳しい外出制限を警察が強要する。国民は買い物や通院、そして1日に1回、1種類だけの屋外での運動が許される。はい、「1種類だけ」。トライアスロンの練習だと3日ないとできないってこと。

荒くてハード。打撃が大きいけど、ロックダウンは有効的。イギリスの例に戻ると、最初はウイルスの脅威を軽視していたが、やはり感染は止められなかった。経済活動を止め、コロナとの闘いに専念したら回復路線を歩み始めた。これ、ボリス・ジョンソン首相個人の話だが、国自体も同じ流れを見せている。

徹頭徹尾「自粛の要請」だけ

さて、世界の成功例と比較して日本は? 大量検査はしない。街で検温しない。アプリを作らない。アラートを送らない。かといってロックダウンもしない。日本のアプローチは、ハードでもソフトでもない。木綿でも絹でもない。「高野」かな?

無理やり豆腐に例える必要はないけど、日本は独自のやり方をここでも見せている。水際対策が失敗した後、まず執ったのはクラスター(患者集団)対策。密閉・密集・密接という「3つの密」の環境を避けるよう国民に呼び掛け、2月末にイベントの自粛、3月上旬に休校が始まった。お笑いライブも一気に自粛対象となり、友達の芸人は「闇営業もない!」と嘆いていた。「食べることを自粛するしかない」と話す仲間も。

4月に入ると、自粛の網をどんどん広げ遊興施設の営業休止を求めた。ボウリング場、ライブハウス、バー、ナイトクラブ、キャバレー、性風俗、射的場などなど(初めて気付いたけど、この並びだと「射的場」も微妙にいやらしそう)。このウイルスは人の喜びを栄養源にするのかと思うぐらい、娯楽が生活から消された。

政府によると目標は「80%の接触削減」。しかし、最初は出勤を控えることは強く求めていなかった。どうも計算が合わない。例えば職場で30人と触れ合う人が夜遊びをやめただけで5分の1に接触を減らせるというなら、普段は毎晩120人と飲んでいたことになる。「サラリーマンみのもんた」という設定かな。

政府もさすがにこの矛盾に気付き、出勤率を下げるよう企業へ呼び掛けた。しかし、これは徹頭徹尾、「自粛の要請」にすぎないもの。強制するつもりは一切ない。それを証明するためにか、安倍晋三首相が自粛要請を発表したその日に、首相補佐官が体を張って数百人の立食政治資金パーティーを開いた。

権力なのか、指導力なのか

これが最も日本独特な点。他国の外出制限・禁止と違って、外出自粛要請。つまり「お願い」だ。ロックダウンは通常罰則が付く。逮捕や拘留のほか、玄関のドアを溶接して家に閉じ込める(中国)、スクワットさせる(インド)、雀卓を壊す(また中国)、催涙ガスを使う(ケニア)、棒でたたく(またインド)などの手段で警官が街中をパトロールし強要する。日本ではDJポリスでさえ街に現れないし、たたかれているのは首相のみ。「うちで踊ろう」を家で聴いて踊らなかっただけで。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story