コラム

野村元監督に敬意を表し、トランプ弾劾を野球にたとえてみると

2020年02月21日(金)16時00分

中立的なフリさえしない

弾劾裁判の冒頭、議員は全員「憲法に従い公平な裁判を行う」と誓う。だが、ミッチ・マコネル上院院内総務は最初から、「僕はずっと大統領の弁護団に合わせる。大統領と僕らの立場は一致している」と語っていた。上院司法委員会のリンゼー・グラム委員長も「公平な陪審員のフリをするつもりはない」と公言している。聞いた瞬間、全国から「同時突っ込み」が聞こえた。裁判前に判事や陪審員が「容疑者の味方だ」と豪語してどうするんだよ!っと。

証拠も証人も要らない

実は共和党は当初、下院の訴えを退けて、弾劾裁判を開かずに無罪判決を下す方針も考えていた。だが、それはさすがにできないと、「裁判」を開くことにした。しかし新しい証人や証拠はゼロ。原告となる民主党が要求しても、政府への資料開示、関係者の証言を一切請求しないで、召喚状を一つも発行しなかった。

「全部見たよ!」と、新しく立ち上がった人にも証言させない

下院の調査に対して、大統領直属の部下は全員証言を断った。そのため、証言した人は「大統領の部下の部下」の立場が多くて、大統領から直接聞いた話は少なかった。しかし、上院の弾劾裁判のときに、ジョン・ボルトン前大統領補佐官(安全保障担当)は証言することを許諾した。トランプの右腕だった彼が近く出版する本で、ウクライナとの取引の内容や目的を聞いていると書いていることも分かった。また、トランプの顧問弁護士の手下で、ウクライナへのパイプ役を務めた実業家レフ・パルナスも証言したいと手を挙げ、トランプとの会話の音源などの証拠を提出している。しかし、共和党はこの直接的な目撃情報や証拠も受け入れなかった。この姿勢を見て思った。なるほど、さっきの疑問が解けた! 「容疑者の味方」と豪語して、こうするんだね。

「選挙に勝つためならいい」ルール

共和党が裁判に証拠や証言は要らないとしたのは、「容疑通りの行為、つまりウクライナ政府に圧力をかけて取引しようとしたとしても背任行為や権力乱用には当たらない」という考えに基づく判断だった。その根拠となる論理を上院で説明したのは、大統領弁護団のアラン・ダーショウィッツ元ハーバード大学教授。彼は、大統領が「当選すること自体が国益につながる」と思っていて、「大統領が、国益につながる当選のために行うことは、弾劾に値する取引になり得ない」と弁解した。つまり、大統領は何をやっても大丈夫、選挙に勝ちたくてやっているならば。こんな空っぽな裁判と暴論を基に上院は無罪判決を下し、トランプの罷免を却下した。

開き直り

共和党はトランプの運命は有権者が決めるべきだと主張している。トランプの弁護士いわく、弾劾で罷免したら「その選択肢をアメリカ国民から奪うことになる」と。確かに、民主党がトランプを倒したいなら選挙に勝てばいいだけの話だ。でも、その選挙を仕切っているのも「不正OK」のトランプ政権だ。

アメリカの民主主義にも、お悔やみを申し上げます......。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story