コラム

野村元監督に敬意を表し、トランプ弾劾を野球にたとえてみると

2020年02月21日(金)16時00分

チームAの応援団

ムラーはブッシュ政権でFBI長官を務めた共和党員。「俺を守らない」とトランプが不満を漏らしジェフ・セッションズ司法長官を解任した後、おそらく「俺を守る」としてトランプに選ばれたのが後任のウィリアム・バーだ。ちなみに司法長官の仕事は大統領ではなく、憲法と法治国家を守ること。

ルール委員長は「ノープロブレム」と

バー司法長官はムラー報告書を受け取ったが、それを開示せずに自ら「概要」を作成して発表した。そこにあった「問題ない」という結論は、報告書の結論と異なるもの。バーの「概要」が誤解を招いていると、ムラーも異議を唱えたという。

またすぐ噂

ロシア疑惑に関して、ムラー特別検察官が下院で証言したのが2019年7月24日。ウクライナ疑惑のきっかけとなった、トランプとウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との電話会談があったのはその翌日、7月25日だった。それが噂になったのは8月中旬。

Bチームにとっての向かい風

トランプがウクライナに頼んだのは、2020年の大統領選挙で有力候補とされているジョー・バイデン元副大統領の「汚職」に関する捜査。バイデンの汚職疑惑は事実無根の陰謀説だと何度も確認されている。だが、ウソでもウクライナがそんな捜査を発表してくれれば、選挙中にバイデンを攻撃するうえで有効な印象操作の「武器」になるはず。現にこの騒動だけでもバイデンは「向かい風」を受け、民主党の予備選挙で苦戦している模様だ。

スタジアム入り口の警備

ウクライナは西欧とロシアの間の緩衝地帯となっている。アメリカが率いるNATO圏への入り口を守る立場だ。ウクライナ東部ではロシアとの軍事衝突が続いているため、ウクライナ政府はどうしても軍事支援(警備費)が欲しい。さらに武器も買いたい。アメリカが味方であることを証明するために首脳会談もしてほしい。

警備費の支払いを交換条件に

ウクライナがそんなほしいものを得るためには、バイデンへの捜査開始を発表しないといけない。それがトランプの提示した取引条件だった。内部告発されたトランプとゼレンスキー大統領の電話会談もその通りの内容だった。

内部告発もノープロブレム

内部告発書を最初に受けた情報当局の監察官は「緊急」と判断した(後に連邦選挙委員会の委員長〔当時〕は、選挙において外国の協力を求めるのは違法だとツイートしたし、政府監査院〔GAO〕は、議会が承認したウクライナへの軍事支援をトランプ政権が凍結したのは違法だと判断した)。それでも司法省は、大統領の行為は問題ないとし、議会に対して疑惑の報告さえしなかった。内部告発書は議会に転送することが法律で定まっているが、それもしなかった。ちなみに政権が「完璧だ」と主張する電話会談の記録も、国家機密のデータベースに移された。

ルール委員会には任せない

ムラー報告書の結論のすり替えや内部告発書の隠蔽のほかに、実はウィリアム・バー率いる司法省が信用できないと判断される理由があった。それは、問題の電話会談でトランプがゼレンスキー大統領に「バー司法長官に電話させる」と言っていること。つまり、バー自身もウクライナ疑惑の渦中にいる人物だ。普通なら「捜査に関与しない」と宣言するはずの立場なのに、バーはそれさえしない。

チームAから勇気ある証人

民主党が主導権を握る下院の司法委員会や情報特別委員会で弾劾に向けて捜査を進めた。しかし70回以上、資料開示や関係者の証言をトランプ政権に求めているのに拒否された。召喚状に従わせるべく裁判を起こす選択肢はあったが、解決まで数年かかる、つまり選挙不正を正す前に選挙が来ちゃうという見込みだった。そこで、前駐ウクライナ大使や駐EU大使、外交官や軍の司令官などの政府関係者が自らの判断で召喚に従った。17人の証人はそれぞれ自分の知っている範囲内だけだが、疑惑の内容は事実だともれなく証言した。それで下院は弾劾を成立させ、大統領の罷免をかける弾劾裁判に持ち込んだ。

仕切り役交代の是非はチームAが決める

弾劾裁判は与党・共和党が支配権を持つ上院で行われるため、裁判の進め方も有罪・無罪の判決も共和党が決められる。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story