コラム

パックン、「忖度の国」日本のお笑いを本音で語る

2018年05月10日(木)17時59分

欧米化でない独特のスキル

そんな環境では、芸人は当然自粛する。もちろん、この暗黙の了解を破る選択はある。しかし、それを選択したら、ほぼ間違いなく芸能界から干されてしまう。せんたくだけに、ほされる(といったダジャレが無難な路線)!

では、世界レベルで日本のお笑いはすごいのか? 欧米には毎日、政治系お笑い番組で伝えるべき情報を伝えながら権力者を笑いものにし、国民と体制のパワーバランスに貢献する芸人がいる。社会のご法度に触れたり、議論を広げる役割を担い、社会の進化に貢献する芸人もいる。すごい影響力だ。さらにアメリカのエディ・マーフィー、カナダのジム・キャリー、『Mr.ビーン』でおなじみのイギリスのローワン・アトキンソンなどのように、世界を制覇した異次元のコメディアンもいる。彼らは間違いなくすごい。

一方、日本のお笑いは? 政治や社会的問題に触れることはほとんどないし、世界を笑わせた芸人も極めて少ない。それをもって「すごくない」と言う人は、過去の僕みたいにお笑いに挑戦したことがない人の中には多いかもしれない。しかし日本だけではなく、英語圏以外の国から世界を制覇した芸人はほとんどいないし、欧米のコメディーをグローバルスタンダードとし、それに当てはまらないだけで日本のお笑いを否定することは行き過ぎだと思う。他国の芸風に合わせる必要はない。タカアンドトシさんも懸念していたね、お笑いの......欧米化!

日本は忖度の国。体制側からの圧力は「すごい」。そんな制約の多い中で笑いをとるのも独特なスキルとして認めるべきではないかと思う。例えば自由形ほど速くはないが、平泳ぎや背泳ぎなど動きが制限される種目でメダルを取る競泳選手だってすごいでしょ?

体制や規範に挑戦するショッキングなネタで笑いをとる「アメリカンスタイル」のコメディーはすごいけど、人を傷つけない、怒らせない、平和的なお笑いを繰り広げる日本のお笑いもすごくないとは限らない。

もちろん、自分の芸能生命を考えて言っているわけではない。アメリカ人は空気が読めないからね。

【参考記事】中身なし、マニュアル頼み、上から目線......「日本すごい」に異議あり!(デービッド・アトキンソン)

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プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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