コラム

「トランプ大統領はウソつき。」

2017年02月09日(木)17時00分

しかし、伝統やマナー、中立性維持のほかに、「ウソ」と書くかどうか、もう一つの悩みがある。それはウソの定義。「ウソ」は、本人がわざと真実と反することをいうこと。つまり、本人が真実をちゃんと把握していなければ「ウソ」にはなり得ない。間違いは「ウソ」ではない。トランプが間違っているだけだという可能性もある。

しかし、真実が分かる出生証明書や航空写真などの証拠をもってしても、言い続けるのであれば"間違い"と言い張れないだろう。ここまでくると残る選択肢は「妄想」と判定することだけ。もうそうするしかないかも。

しかし、妄想かどうかの診断は精神科医がすることだ。メディアがいうと中傷っぽくなる。だからメディアはdelusion(妄想)という表現を避ける。また上述のとおり、トランプの知識や内心が分からないからlie(ウソ)も使いたがらない。結局は明らかに真実と異なる発言でもclaim(主張)、say(言う)など、無難な表現を使う傾向が強い。

それゆえに、見出ししか読まない読者も多いなか、ニュースがウソや妄想だと気付かず、彼の虚言を真実と受け止めてしまう人が生まれる。やはり、トランプの「非真実的発言」をどうにか一言で表さなければならないご時世だ。

【参考記事】サタデー・ナイト・ライブに「スパイサー報道官」が笑劇デビュー!

そのために、ちょうどいい表現がある。それはtrump。固有名詞ではなく、小文字のほうのtrump。ご存じのとおり、「カードゲーム」という意味で使われている和製英語でもあるが、英語では「切り札」という意味の名詞である。

またヒラリーのスローガンLove trumps hate(愛は憎しみに勝つ)にあったように、「~に勝る」という意味で動詞としても使う。でも僕が勧めるのはその使い方ではない。

実はtrumpにはもうひとつの意味がある。ちょっと古い意味だが、現大統領の発言に奇跡的に当てはまるものだ。それは「だます」や「捏造する」。つまり、これを使えば見出しはTrump lies...ではなくTrump trumps...と書けばいいのだ! 気持ち悪いぐらいの偶然で、完全に問題解決ではないか。ぜひ広めよう!

ちなみに、「うそだろ~」と、「さっきの妄想のダジャレのような、微妙な冗談だろ!」と思う人もいるかもしれないけど、このtrumpという動詞の意味は本当だから。僕は決してトランプっていないからね。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story