コラム

芸人も真っ青? 冗談だらけのトランプ劇場

2016年08月19日(金)16時00分


 事後に解説が必要なトランプの発言は他にもいっぱいある。ヒラリー・クリントンのメール不正削除問題について、記者会見で「ロシア、聞いているか? ぜひ行方不明になっている3万通以上のメールを見つけてほしい」と言ったのもそう。まさか、サイバー攻撃が一番恐れられている中、外国の政府に元国務長官のメールをハッキングしてほしいと、大統領候補が言ったのか?

 いや、これも後日、冗談だよ、と。

 また、最高裁の判事任命に敏感な党員を煽ろうとして、「ヒラリーが当選して、(銃規制を推進するリベラル派の)最高裁判事を任命したら、もうなす術はない。まあ、銃支持者の方々ならあるかもね......」と言った。おっと? 「気に入らない判事の任命を阻止するため、銃を持っている人なら『何か』できる」と、暗殺をほのめかす発言をしたのか? とまたまた世間が騒いだ。後に、共和党のポール・ライアン下院議長など味方が「冗談だったんだろう?」とフォローを入れることに。

 さらに、先週は「オバマがイスラム国の創立者だ」と主張した。そんなことを言ったら、本当の創立者、故ザルカウィやアル・バグダディーが怒るよ。これはさすがに冗談だろうと、「『オバマ大統領がイスラム国の生まれる環境を作ってしまった』と言いたかったんだよね?」と番組の司会者が確認するも、トランプは「いや、オバマがイスラム国の創立者だと言っているんだ」と、頑なに繰り返すばかりだった。

 日が経っても、今回は冗談だと言わなかった。今回は「皮肉だよ」と。

 これらの「冗談」は全部8月に入ってからの発言! 芸人なら、ネタ作りの早い人だ。そして、正直、ネタとしてそこまでひどくない。ただ、トランプが言うと笑えないのだ。

【参考記事】アメリカの外交政策で攻守交代が起きた

 過去にもそんな発言はあった:

「今日、ニューヨークは大雪だ。早く温暖化しないと!」
「イヴァンカちゃんが娘じゃなかったら、俺だって付き合いたいよ!」
「俺の指は長くて美しい、ほかの体の部位もそうだけど......」

など、どれも違う立場の方が違う場面でいうと十分面白い。でも、トランプは実際に温暖化を否定する共和党の代表だし、娘と同世代の人と結婚している。そして大統領候補だ。チンチン関連の発言は禁止!

 大統領候補のオーディエンスは全地球人。友達と飲んでいるときにウケるようなジョークは、性別や階級、思想などが異なるアメリカ人にはウケない。ましてや言語や文化背景が違う外国人に伝わる可能性はほぼゼロ(アメリカのユーモアが日本で通じないことを毎日痛感している僕が言うんだから間違いない)。

 大統領は、一部の支持者だけでなく全国民に、そして、全世界に通じる明確な表現を使わないといけない。友達に超ウケそうな面白いことを思いついても我慢しないと。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story