高校銃乱射事件で共に息子を失った被害者と加害者の両親の再会『対峙』
加害者と被害者の両親の間には、誤解も生じ、溝が深まる
しかし、単にそうした共通点を指摘するためだけに、ここで本書を取り上げたわけではない。本書の内容と対比してみると、クランツの脚本の意図がより明確になるように思えるからだ。たとえば本書には、以下のような記述がある。
「事件から約1年後、亡くなった男子生徒の父親が連絡をくれた。私たちは2001年12月に彼を家に招いた。彼の寛大な気持ちに私は驚き、ディランがしたことを直接彼に謝罪し、彼が息子を失ったことをとても悲しく思っていると伝えられて、とても救われた。私たちは泣き、写真を見せ合い、子どもたちの話をした。彼は帰り際に私たちに責任はないと思うと言ってくれた。これ以上にありがたい言葉は考えられない」
これは全体から見ると例外的なエピソードといえる。デイヴ・カリンの『コロンバイン銃乱射事件の真実』にも書かれているように、犯人が自殺した場合、生きている両親は、世間からとことん責任を追及される。一方で両親は、訴訟を起こされているために、謝罪したくても発言や行動が制限される。そこで加害者と被害者の両親の間には、誤解も生じ、溝が深まる。
クランツはそうした現実を踏まえて、人物とその複雑な関係を練り上げている。ジェイとゲイルは訴訟を起こさなかった。夫妻が権利を放棄したのは、先ほど引用したエピソードのように、彼らが寛大だったからというわけではない。いたずらに対立を深めるような事件後の流れに納得できず、対面して話し合うことを選んだのだ。
但し、その目的は必ずしも明確ではない。もちろん原因を突き止めたいという気持ちは強い。だが、それだけではなく、ゲイルは胸に秘めたある決意をめぐって心が揺れ、ジェイには、犯人の両親が罰を受ける姿を自分の目で見たいという思いもあるようだ。
だから最初は会話が噛み合わない。ジェイとゲイルは、聞く耳を持たないようにも見える。これまで事件が頭から離れず、細かなことまで知っているため、相手が何を語っても同じ話を繰り返しているようにしか聞こえないのだ。だが、感情が込められた言葉は、たとえ既知のことであっても、次第に彼らに届くようになる。クランツはそうした微妙な変化を細やかに描き出している。
「なにかがおかしいことに気づいていなかったわけではない......」
さらに、もうひとつのポイントを説明するためには、まず、スーの手記から印象に残っている記述を引用する必要がある。
それは、コロンバインの事件が起きる一ヶ月ほど前の午後、自宅におけるスーとディランのやりとりだ。彼女は、ソファに座って宙を見つめているディランに、最近とても静かだが、大丈夫かと問いかける。立ち上がった彼は、宿題などでちょっと疲れているだけだといって、階段をのぼっていった。そんなやりとりの後に、こんな記述がつづく。
「なにかがおかしいことに気づいていなかったわけではない。けれどそれが生死に関わるような重大なことだと思わなかった。私はただ、ディランに悩みがあるようで心配だったのだ。事件以来、このときのやりとりを思い出さなかった日はない。なぜあのとき彼を追って階段をのぼっていかなかったのか自分でもわからない。遠くを見るような目----自殺学の専門家トーマス・ジョイナーは『千ヤード向こうを見つめる目』と形容している----は自殺の危機が差し迫っているサインであるが、よく見落される」
本作のリンダもまた、それと似た思いを胸に秘めている。クランツは、対面する4者がどのような関係を築いていけば、リンダがそれを口に出して伝えようとするのか、そして同じ母親としてゲイルがそれを受け止められるのかを考え抜いて、この脚本にまとめ上げている。それは、実際に作品をご覧になればおわかりいただけるだろう。
本作では、4人の俳優たちの迫真の演技に目を奪われ、深く考えさせられるが、それを引き出しているのは、鋭い洞察に満ちたクランツの脚本と演出だといえる。
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