ホロコーストは、世界を覆う徹底的な合理化の先駆だった...映画『ヒトラーのための虐殺会議』
しかし、そんな4者の図式から生まれるそれぞれのドラマでは、異なる要素が強調されていくことになる。
『謀議』では、ハイドリヒが、会議の合間の休憩時に、抵抗を示すシュトゥッカートやクリツィンガーと個別に会い、国家の敵とみなすなどの脅しによって彼らに圧力をかける。そして会議の終わりには、ハイドリヒが、参加者ひとりひとりから賛同の言質をとる。
さらに、ハイドリヒがクリツィンガーと個別に会う場面には、ある伏線が盛り込まれている。クリツィンガーは、彼の友人の知人に起こったことを話そうするのだが、そこで場面が切り替わり、内容まではわからない。そして会議が終わり、参加者の大半が別荘を去った後で、ハイドリヒがアイヒマンにその内容を語って聞かせる。
クリツィンガーの友人の知人は、愛する母親が亡くなったときに、なぜか涙が出なかった。ところが憎んでいた父親が亡くなったときには、涙が止まらなかった。その知人は、憎むことが生きがいになっていて、それを失って絶望したのだ。その話は、ユダヤ人への憎しみに対する警告になっている。
世界を覆う徹底的な合理化の特徴を備えていた
つまり、『謀議』では、「権力」や「憎しみ」といった要素が強調されている。だが、本作の場合は違う。本作で強調されるものは、世界を覆う徹底的な合理化を検証したジョージ・リッツアの『マクドナルド化する社会』のことを思い出させる。リッツアがホロコーストに言及した部分には、たとえば以下のような記述がある。
「ホロコーストは、合理性(そしてマクドナルド化)の基本的特徴をすべて備えていた。第一に、それは大量の人間を破壊するためのメカニズムであった。たとえば、銃弾が非効率的であることは初期の実験が示していた。ナチスは人びとを破壊するもっとも効率的な手段として最終的に毒ガスにたどり着いたのである。またナチスは、自分たちがやらねばならない多くの作業(たとえば次の犠牲者グループを選ぶこと)を遂行するのにユダヤ人コミュニティの成員を使うことが効率的であることを発見した(後略)」
本作の終盤には、軸となる4人が絡み合うドラマに、この引用を想起させるやりとりが盛り込まれている。
ハイドリヒは、理詰めで抵抗するシュトゥッカートに業を煮やし、唐突に会議を中断し、席を立ってシュトゥッカートを別室に呼び寄せる。アイヒマンは仕方なく休憩に入ることを一同に伝え、参加者は一息つくために隣の広間に移動するが、クリツィンガーだけが残り、資料に目を通している。
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