コラム

インドの不平等の特殊さを描くドキュメンタリー『人間機械』

2018年07月20日(金)18時05分

映画は工場の内部から始まり、終盤まで外に出ることはない。工場が彼らの世界になっている。そんな環境で、規則正しく動きつづける機械に合わせて何年も12時間労働をすれば、感覚が麻痺し、思考も失われていくだろう。

インドの現実を独自の視点で描き出している

この映画の終盤では、工場街の路上で労働者たちがカメラを囲み、そのなかのひとりがカメラの背後に立っているであろう監督に、このように訴えかける。

「あなたに力があるなら行動を起こしてくれ。誰も反対しない。あなたについていく。仕事もサボる。あなたが本気で労働者の役に立ちたいと思うなら何をすべきか教えてくれ」

この映画は、単に格差や劣悪な労働環境を告発するだけではなく、アディガが"鳥籠"と呼んだインドの現実を独自の視点で描き出しているといえる。

《参照/引用文献》
『開発なき成長の限界――現代インドの貧困・格差・社会的分断』アマルティア・セン/ジャン・ドレーズ 湊一樹訳(明石書店、2015年)
『グローバリズム出づる処の殺人者より』アラヴィンド・アディガ 鈴木恵訳(文藝春秋、2009年)


公開:7/21(土)〜ユーロスペースにてロードショー、以下全国順次公開
(C)2016 JANN PICTURES, PALLAS FILM, IV FILMS LTD

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

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