オバマ政権への期待を裏切られた愛国者「スノーデン」を描く
オバマ政権に期待して、告発を思いとどまったが
スノーデンが、その後もテロ防止という目的を逸脱した大量監視の実態を目の当たりにしながら、告発を思い留まっていたのは、新たに誕生したオバマ政権に期待したからだった。この映画を観ると、その期待には、恋人の影響もあったように思える。愛国者のスノーデンに対して、ミルズはリベラルであり、オバマを熱烈に支持していたからだ。しかし、政権が変わっても大量監視は拡大の一途をたどり、スノーデンは自分も監視の対象となり、彼女との私生活が記録されていると確信するようになる。
そんなドラマは、スノーデンの告発の動機や背景を明らかにするだけでなく、いま振り返ることで別な意味も持つ。スノーデン以後を検証したデイヴィッド・ライアンの『スノーデン・ショック――民主主義にひそむ監視の脅威』には、以下のような記述がある。
「(前略)あれほど衝撃的なスノーデンの暴露ですら、人々を改善に向けた行動へと一斉に向かわせるには至っていないようだ。確かに、NSAの大量監視の被害者になった人物というぴったりの事例を挙げることは困難で、せいぜいできることは政治的抑圧の危険性の拡大を挙げることくらいだ。暗黙の前提は、『ここでは起き得ない!』ということだ」
そしてもうひとつ、実話にフィクションも織り交ぜた劇映画としてのアプローチにも注目しておきたい。この映画の登場人物の配置からは、特にストーンの初期作品を想起させるような図式が浮かび上がる。『プラトーン』の主人公クリスは、善と悪を象徴するようなエリアスとバーンズというふたりの軍曹を通して、戦場の現実と向き合う。『ウォール街』の主人公バドは、欲望と勤勉を象徴するゲッコーと父親の間でモラルを問われ、葛藤を強いられる。
この映画でも、CIA訓練センターで学ぶスノーデンの前に、オブライアンとフォレスターというふたりの教官が現われ、その後のスノーデンに影響を及ぼしていく。オブライアンは、国民の自由よりも安全を優先し、秩序を維持するためには手段を選ばない。その存在は、ジョージ・オーウェルの『1984年』に登場する党内局員オブライエンを連想させる。一方、オタクなエンジニアでもあるフォレスターは、広範な監視活動に懸念を示したために窓際に追いやられている。その人物像は、スノーデン以前に、組織の内部で改善を求めようとして排除されたウィリアム・ビニーら3人の告発者を連想させる。
スノーデンはそんなふたりの人物の間で揺れ、煩悶し、一線を越える決断を下す。この映画は、事実に基づく物語であると同時に、ストーン流のビルドゥングスロマンと見ることもできる。
《参照/引用文献》
『暴露――スノーデンが私に託したファイル』グレン・グリーンウォルド 田口俊樹・濱野大道・武藤陽生訳(新潮社、2014年)
『スノーデンファイル――地球上で最も追われている男の真実』ルーク・ハーディング三木俊哉訳(日経BP社、2014年)
『スノーデン・ショック――民主主義にひそむ監視の脅威』デイヴィッド・ライアン 田島泰彦・大塚一美・新津久美子訳(岩波書店、2016年)
『スノーデン』
公開:2017年1月27日(金)より、TOHOシネマズ みゆき座ほか全国ロードショー
配給:ショウゲート
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