コラム

中国が西沙諸島に配備するミサイルの意味

2016年02月19日(金)07時21分

 中国は当然のように米国に猛反発し、南シナ海における人工島建設には軍事目的もあると、中国人民解放軍の高級将校が認めるに至った。その後、機会を捉えて、米国は、中国が南シナ海において行っている人工島建設及び軍事施設化を止めるよう、軍事的な圧力を段階的にかけてきた。

 そして、一方の中国は、米国が対中圧力の段階を上げるにつれて、対米けん制を段階的に強めて来た。双方が、緊張を段階的に高めているのだとも言える。一種のチキンレースだ。2015年10月27日の、スプラトリー諸島のスビ礁から12海里以内の海域を米海軍駆逐艦が航行するという「航行の自由」作戦以後、中国外交部や国防部は、「米国の無責任な行為が、南シナ海における緊張を高めている」と非難してきた。

 同年11月3日には、中国人民解放軍の乙暁光副総参謀長が、中国が南シナ海で造成する人工島周辺に米軍艦が再度進入した場合、「一切の必要な措置を取り、国家主権と海洋権益を守る」とのべ、軍事的対抗措置を示唆した。

「国内がもたない」危機感

 中国では、10月の「航行の自由」作戦の後、「2回目があったら、中国国内が持たないかも知れない」とさえ言われるほどの危機感があった。中国が主権を主張する海域において、米国に自由な軍事行動を許せば、中国国内における共産党指導部の権威は失墜し、中国国内が不安定化する、という危機感である。共産党による統治が覆されるかもしれないという意味だ。

 中国は、米軍の「航行の自由」作戦を、「中国の国家安全に対する重大な脅威」と位置付けて、「非常に危険で不測の事態を起こしかねない」とし、強く米国をけん制してきたのだ。しかし、12月には、核兵器も搭載できる米軍のB-52戦略爆撃機が、中国が人工島建設を行っているクアテロン礁から2海里の上空を飛行した。

【参考記事】米爆撃機が中国の人工島上空を飛んだことの意味

 米国防総省は、「悪天候のせいだ」とし、故意ではなかったとしたが、中国がこれを信じるはずもない。そもそも、中国にとっては、故意であろうがなかろうが、中国が領土と主張する人工島のほぼ直上を、核爆弾を投下できる爆撃機がゆうゆうと飛んだこと自体が大問題なのだ。

 さらに、中国は、米軍機の行動に対して何の対処能力もないことを明らかにしてしまった。国防総省のスポークスマンは、「中国側にスクランブル等の動きはなかった」とまで述べて、中国に対領空侵犯措置を採る能力がないことを公にしたのだ。

 中国は、こうした米国の圧力に対して、人工島の実効支配を既成事実化する動きに出た。中国外交部の華春瑩副報道局長が2016年1月2日夜に発表した談話において、南シナ海スプラトリー諸島(南沙諸島)のファイアリクロス礁(永暑礁)に新設した飛行場へ航空機を試験飛行させたことを明らかにしたのである。中国は同礁などで埋め立てや滑走路建設を進めていたが、実際に飛行機を飛ばしたのは初めてとみられる。

プロフィール

小原凡司

笹川平和財団特任研究員・元駐中国防衛駐在官
1963年生まれ。1985年防衛大学校卒業、1998年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。安全保障情報を扱う「IHSジェーンズ」のアナリスト・ビジネスデベロップメントマネージャー、東京財団研究員などを経て、2017年6月から現職。近著『曲がり角に立つ中国:トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版、共著者・日本エネルギー経済研究所豊田正和理事長)の他、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバー・トゥエンティワン)、『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『中国軍の実態 習近平の野望と軍拡の脅威 Wedgeセレクション』(共著、ウェッジ)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)など著書多数。

筆者の過去記事はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story