コラム

中国が西沙諸島に配備するミサイルの意味

2016年02月19日(金)07時21分

 試験飛行は、中国政府が、南方航空と海南航空の中型旅客機をそれぞれ1機ずつ借り上げて行われた。中国は、民間機であることを強調したが、政府が借り上げている以上、純粋な民間機ではなく、そもそも、民間機かどうかが問題ではなく、航空機が実際に離発着できることを示したことが問題なのだ。

 中国は、南沙諸島の人工島における航空機の離発着をもって、人工島利用の既成事実を作り、米軍機の進入を思いとどまらせようというのである。もちろん、今後、中国が必要と考えれば、軍用機の運用も可能である。

衝突は避けなければならない中国

 米国は、この試験飛行についても厳しく中国を非難したが、中国は取り合わない。そこで米国が採った手段が、2回目の「航行の自由」作戦である。2016年1月30日に実施されたこの作戦は、今度は、パラセル諸島(西沙諸島)で行われた。今回も、中国は、米海軍駆逐艦を強制的に排除することはしなかった。

 できないのだ。もし、強制排除のための行動をとれば、米海軍と衝突する危険が高くなる。現段階では、中国は、米国と軍事衝突しても勝ち目はない。米国との衝突を避けなければならない中国は、米艦艇に対して強硬な手段を採ることが難しい。

 中国国防省は同日、「重大な違法行為で断固反対する」との談話を発表した。同時に、「米軍のいかなる挑発行為にも中国軍は必要な措置を取る」と警告し、この日も中国軍艦が監視や警告措置を取ったとしたが、結局は、警告に止まっていたのだ。

 しかし、米海軍の艦艇に自由に行動させていては、国内の不満が高まる。米艦艇に直接対抗できないのであれば、別の手段で米国をけん制するしかない。それが、今回のミサイル配備である。

 一方で、中国は、南シナ海コントロール強化のための軍備を進めるにあたって、米国の軍事行動を口実にしているという側面もある。中国が一方的に人工島を建設し軍事化していると、国際社会から非難されるのは、中国にとって好ましいことではない。中国は、新たにブロックを作って米国ブロックと対抗することを考えている訳ではなく、既存の国際秩序自体を変えると言っているのだ。

 中国は、「現在の国際関係は不公平と不平等に満ちている」と公言し、習近平主席自身が、「協力とWin-Win関係を核心とする『新型国際関係』を積極的に構築する」と宣言した。中国にとって「協力的でWin-Win」の関係、すなわち、中国にとって有利な国際秩序にすると言っているのだ。国際社会の中で孤立してしまっては元も子もない。

【参考記事】まれに見る「不仲」に終わった米中首脳会談【習近平 in アメリカ<3>】

 米国の軍事行動が中国の自衛措置をやむなくしているとして、中国は南シナ海の人工島の軍事化を正当化しているのだ。

プロフィール

小原凡司

笹川平和財団特任研究員・元駐中国防衛駐在官
1963年生まれ。1985年防衛大学校卒業、1998年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。安全保障情報を扱う「IHSジェーンズ」のアナリスト・ビジネスデベロップメントマネージャー、東京財団研究員などを経て、2017年6月から現職。近著『曲がり角に立つ中国:トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版、共著者・日本エネルギー経済研究所豊田正和理事長)の他、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバー・トゥエンティワン)、『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『中国軍の実態 習近平の野望と軍拡の脅威 Wedgeセレクション』(共著、ウェッジ)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)など著書多数。

筆者の過去記事はこちら

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