コラム

中国が西沙諸島に配備するミサイルの意味

2016年02月19日(金)07時21分

 今回配備された地対空ミサイル「紅旗9(HQ-9: HongQi-9)」は、ロシアの技術を基礎にしたもので、改良型の射程は200キロメートルとされる。巡航ミサイルや航空機に対処する兵器である。中国は、米軍の軍事行動からウッディー島の基地を防衛するためという理由をつけるだろうが、当該島から半径200キロメートルを飛行する航空機(特に軍用機)は、常に中国の対空ミサイルに攻撃されることを考慮しなければならなくなる。

 実は、ウッディー島では、中国の戦闘機が運用されている。2015年11月1日に、中国海軍のJ-11B戦闘機が実弾を搭載した状態でウッディー島に進駐したと報じられた。ウッディー島は、海南島から350キロメートルしか離れておらず、中国海軍は、南シナ海における航空作戦の中継基地として使用するとしている。

ミサイルは撃墜を意図するもの

 しかし、ミサイルが航空機と異なるのは、ミサイルの機能が、巡航ミサイルや航空機を撃墜することに特化していることだ。航空機による対領空侵犯措置は、まず、警告から始まる。領空に入らないように警告し、入れば、直ちに領空外に出るように警告する。それでも、領空侵犯機が警告に従わず、自国に危害を加える意図が認められて、初めて武器が使用される。しかし、ミサイルを使用するということは、直ちに、飛行している航空機等を撃墜することを意味する。

 米国が警戒を強めるのは、中国が、南シナ海を飛行する米軍の哨戒機等に対して、撃墜の意図を示したとも受け止められるからだ。さらに、中国が、戦闘機等の中継基地を南沙諸島にまで展開し、それぞれに地対空ミサイルを配備することになれば、半径約200キロメートルの撃墜範囲が南シナ海に並ぶことになり、戦闘機による航空優勢確保の行動を支援できることから、南シナ海を平面で押さえることになる。南シナ海の軍事的なコントロールという中国の目標の現実味が増してくるのだ。

 米中のチキンレースは今後も続くが、すぐに衝突するという訳でもない。米中は、相手の出方を見ながら、段階を追って手段の強硬さを高めている。米中双方には、まだ緊張を高めるオプションが残っているということは、衝突までまだ時間があるということだ。

【参考記事】米の対台湾武器売却に対する中国の猛抗議と強気

 中国は、パラセル諸島における軍事化を確立した後に、スプラトリー諸島の軍事化に着手するだろう。それも、米国の軍事行動から自国を防衛するためにやむを得ず、という理由をつけてだ。そして、今回のように、何時実行に移せば、政治的に最大の効果を得られるかを考えて行動するだろう。

プロフィール

小原凡司

笹川平和財団特任研究員・元駐中国防衛駐在官
1963年生まれ。1985年防衛大学校卒業、1998年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。安全保障情報を扱う「IHSジェーンズ」のアナリスト・ビジネスデベロップメントマネージャー、東京財団研究員などを経て、2017年6月から現職。近著『曲がり角に立つ中国:トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版、共著者・日本エネルギー経済研究所豊田正和理事長)の他、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバー・トゥエンティワン)、『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『中国軍の実態 習近平の野望と軍拡の脅威 Wedgeセレクション』(共著、ウェッジ)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)など著書多数。

筆者の過去記事はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

SBI新生銀行、東京証券取引所への再上場を申請

ワールド

ルビオ米国務長官、中国の王外相ときょう会談へ 対面

ビジネス

英生産者物価、従来想定より大幅上昇か 統計局が数字

ワールド

トランプ氏、カナダに35%関税 他の大半の国は「一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story