コラム

今、本当に必要な経済政策を提案する

2021年10月18日(月)12時07分
マスクをした子どもたち

ばら撒きで子供たちと日本の未来はよくならない Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<景気対策は必要ない。コロナの反動需要で景気はこれからますます良くなるからだ(そのカネは、いずれ世界的スタグフレーションがやってきたときに必要になる)。それよりも、今や中国や韓国にも抜かれてしまった長期的な人と教育への投資を急がなければならない>

現在、各政党から出されている公約の経済政策の酷さは惨憺たるものだ。これは既に議論したので、今日は、では何をするべきか、を提案しよう。

まず、大前提として、景気対策は一切要らない。なぜなら、現在、景気は良いからであり、今後、さらに良くなるからだ。

世界的にも、コロナショックへの財政金融政策の総動員をしたところへ、コロナから回復して、一気に反動需要が出てきて、世界が21世紀最高の好景気となった。日本はショックも小さく反動も小さいが、それでも景気は良い。しかも、この8月9月の感染が日本では一番の感染者数だったので、一時的に落ち込んだが、日本の消費の反動的な増加はこれからだ。

だから、景気はさらに良くなる。

景気対策のカネがあれば、それは、来年以降、反動需要増加がピークアウトし、世界的なインフレと不況(いわゆるスタグフレーション)がやって来た時に使うべきである。それまで景気対策のカネは取っておくべきだ。

今景気対策をするとむしろ過熱しているところにさらに過熱させるのでマイナスですらある。

そもそも、コロナで経済はまったく傷んでいない。

傷んでいるのは、経済ではなく社会だ。

バラまきでは困った人も救われない

経済的なショックは局部に集中している。特定の業界およびそれに関連する小規模の企業、自営業者だ。傷んだ彼らを、救うためには経済対策では効果がない。ましてや景気対策では、傷んでない、力が残っている強い企業にほとんどかっさらわれる。

必要なのは、経済対策ではなく、社会対策だ。

特定のセクターが公共性のあるセクターであれば、再建を支援する。小企業、個人事業主であれば、もともとの廃業タイミングが早まった企業・事業者が多いから、彼らの廃業を支援する。

廃業手当を失業保険と生活保護の両方の要素を含んだものとして支援する。このシステムを作る。10万円をすべての国民にバラまいても、彼らは救われない。

さて、では、何をするか。

今述べたように、日本に必要なのは、短期の景気対策、経済対策ではない。長期の経済基盤立て直しに全勢力を集中すべきである。

長期の経済基盤とは、人に尽きる。

経済の基盤は人材と社会であり、社会とは人である。
したがって、二重の意味で人がすべてなのである。

人を育てるのは教育、教育となっても、政治家とエコノミスト達は、短期の政策しか考えない。大学院、研究機関への資金注入、研究基金の設立。二重の意味で誤りだ。

第一に、金を投入していないから人材が育たない、という考えが誤りだ。金よりも先に人だ。

人を育てるのは、金ではなく人が必要だ。人が人を育てる。サッカーやバスケットでは、指導者の重要性が認識され、優れた指導者であれば、金に糸目をつけずに、人を世界中からスカウトするのに、学校の教師あるいは大学で研究を指導するよき研究者かつ教育者である人材の獲得にはそれほど注力しない。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 4
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 5
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 6
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 7
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 10
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story