コラム

ついに日本は終わった

2020年03月06日(金)14時20分

日本政府は3月5日、新型コロナウイルスの感染者が多い中国と韓国からの入国規制を決めた(写真は羽田空港、1月20日) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<安倍首相が表明した中韓2国からの入国規制は、まともな官僚がついていればあり得ない選択肢だった。そのせいで、新型コロナウイルス危機は大きな経済危機に発展するかもしれない>

ついに日本は終わった。

安倍首相は5日、新型コロナウイルス感染症対策本部会合で、中国、韓国からの入国者(両国から帰国する日本人も含まれる)に指定場所で二週間待機し、国内の公共交通機関を使わないことを要請すると表明した。

終わりだ。

学校の一斉休校要請は99%誤りだが、これは200%誤りだ。

価値観の違い、見通しの違い、事実認識の違い、すべてを超えて、あらゆる面で誤りである、どのような立場を採ろうとも、この施策は誤りであり、意味がないどころか、日本を決定的に積極的に駄目にする決定だからだ。

水際対策は、いまや意味がない。やるなら1月せいぜい2月頭だ。感染拡大防止をするなら、国内の対策がすべてであり、それ以外は意味がない。

いまや中国や韓国から観光に日本に来る人はほとんどいない。来るのはどうしても必要だからで、ビジネスだ。そして、日本人も含まれ、これは100%ビジネスか、現地からの退避者で、日本経済をつぶすだけでなく、日本国の同胞を犠牲にする(隔離されるなら帰国せずに現地でリスクにさらされる(肺炎のリスクだけでなく、様々な社会的リスク)ことになる)措置であるからだ。

なぜ、こんなことになってしまったのか。

指導者の行動バイアス

安倍首相の個人的な誤りではない。

リーダーを危機で支える。それがスタッフの役割であり、日本では官僚の役割だ。それに失敗している。すべては一部の官邸官僚および彼らに付随する贋の専門家たちだ。

私が政府で働いたときに学んだことは、リーダーは危機では重圧で身動きがとれなくなることがある。判断も鈍るし、事実を正確には把握できなくなる。そのようなときに、正確なファクトを伝え、事実からいって誤りでない、ただし、考え方、価値観によってはいくつかの選択肢があり得るから、それを提示し、決定するのはリーダーであり、政治である。あとは意思決定後にリーダーシップを遺憾なく発揮できるように支えることだ。

すべて逆を行っている。それが官邸の首相の取り巻きたちだ、と想像する。

あり得ない選択肢は、何をもってしても止めなくてはいけない。意見が異なるのは仕方がないし、当然だ。しかし、どんな立場でもあり得ない意思決定をさせてはいけない。そして、リーダーは焦る。危機においては焦る。さらに、危機で手を尽くし、あとは待つしかない、というときに、その待つ時間が長いと、リーダーはさらに焦る。もどかしくなり、何も動かない自分を責める。自分から動きたくなってしまう。正義感のあるリーダーほど、素直でナイーブであればなおのこと、動くべきでないところで動いてしまう。そういう行動バイアスが存在する。それを止めるのが、側近、ブレーン、スタッフの役割だ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日産、タイ従業員1000人を削減・配置転換 生産集

ビジネス

製造業PMI11月は49.0に低下、サービス業は2

ワールド

シンガポールGDP、第3四半期は前年比5.4%増に

ビジネス

中国百度、7─9月期の売上高3%減 広告収入振るわ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story