コラム

一斉休校でわかった日本人のレベルの低さ

2020年03月02日(月)12時48分

マスクをして通学する小学生、一斉休校でこの日が今年度最後の登校に(2月28日) Issei Kato-REUTERS

<入試の公平性や教育の格差は大問題になるのに、一斉休校で教育の機会が失われることには異論を唱えない。日本は終わった>

日本はもう終わりだ。

コロナウイルスによって終わったのではなく、終わっていたことがコロナウイルスによって明らかになったのだ。

安倍首相は、官邸主導で、全国の小中高校の一斉休校を要請した。

最悪だ。

目的が間違っている。

感染拡大を抑えるということだが、子供の感染率は低いし、それよりも高齢者のスポーツジム利用自粛要請の方がまだましだ、という例で明らかなように、手段の優先順位が間違っている。

しかし、そんなことは今に始まったことではない。そんなことで日本が終わるなら、とっくに終わっている。

私にとっての最大の驚きは、官邸のこの意思決定に対する人々の反応だ。

もちろん、メディアも国民もほとんどの人が一斉に反発した。

それは酷いと。

だが、人々の反応は、官邸の酷さの上を行った。

人々は、子供が家にいたら働きにいけない、と反発したのである。親が困る、と強く反対したのである。

これに対し、官邸はこれまた見事に大きな誤りで反応した。公設の託児所、学童は閉めません。こちらは全力で対応し、ご両親が安心して働けるようにします、と。

小中学校よりも、託児所、保育園、学童の方が濃厚接触による集団感染のリスクは高い。そちらは親の反発を避けるために全力で開ける、というのは二重に間違っている。

親が働きに行けないことが問題ではない

しかしそれよりも、親が働きにいけない、という人々の反発の方が何倍も誤っており、これが日本が終わりであることを明示している。

ここで本当に大事なのは、一斉休校によって子供たちの教育がおろそかになることだ。

卒業や単位、進学について問題が生じないようにすると官邸は言う。そんなことは二の次だ。重要なのは、教育そのものがおろそかになることだ。

授業がなくなる。

学校教育で最重要なのは授業だ。

その授業がなくなって 子供たちが学ぶ機会が減る。それについての批判が全くない。

親たちや、町を歩く人々も、卒業式ができなくて可愛そう、友達とこのまま離れ離れになるなんて、と同情する。

そんな情緒的なことはどうでもいいのだ。

勉強する機会を失う。

これが学校を閉鎖することの問題のすべてだ。

人々が、その点については、驚くほど、全く無視しているのは、日本においては、教育というものをまったく重要だと思っていないことを現している。

だから日本は終わりなのだ。

日本ほど、世界で教育に関心のない国はない。

入試においても、公平性だけが議論され、勉強の中身、試験の中身については、二の次にされる。教育格差についての議論も、格差だけが問題であって、その教育の絶対水準については、問題にされない。

日本は教育の中身に関心のない国なのである。これが、今回の休校要請騒ぎで明らかになった。

だから、日本は終わりであり、終わりだと今回改めてはっきりしたのである。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 初の実

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 10
    70代は「老いと闘う時期」、80代は「老いを受け入れ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story