コラム

サウジ原油施設攻撃で世界は変わる

2019年09月17日(火)12時30分

9月14日、ドローン攻撃を受けたサウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコの石油施設 U.S. Government/DigitalGlobe/REUTERS

<日本は悠長すぎる。サウジアラビア原油施設へのドローン攻撃は、石油価格の高騰を招くばかりでなく、世界のパワーバランスも変えてしまうだろう>

日本での認識は甘すぎる。

原油が急騰。実は、これはどうでもよいことなのだが、それに対する認識ですら甘い。

まず、報道は米国では攻撃直後に行われたが、日本の主な報道は休日だったこともあり、丸1日遅れた。さらに、テレビのニュース番組に出ていた有識者は、日本の原油備蓄は十分にあり、サウジが原油輸出能力は月曜日には3分の1は回復とコメントしたのを受けて、ほとんど生活には影響がないと述べた。また、これが長期にわたったとしても、他国の生産能力は十分にあるから、大きな値上がりにならないだろうと述べた。

現実は全く異なり、昨日はニューヨークの原油は2009年以来の1日での上昇幅を記録し、15%上昇の1バレル62.9ドルで終わった。欧州ではもっと激しく、北海ブレンドは、30年ぶりの上昇、こちらも15%上昇で69ドルとなった。

OPEC各国やロシアは増産しないのか? するはずがない。彼らは、原油の価格高騰をひたすら待っていたのだ。理由は何でも構わない。原油の価格がいったん上昇すれば、そこが新しいフォーカルポイント(人々の期待の焦点となるポイント)となり、それが短期の均衡値となる。すべての原油生産者は得をするから、これをあえて崩す馬鹿はいない。

さらに中東の力関係でいえば、原油生産と埋蔵量の圧倒的な規模を背景に地域支配力を持っているサウジアラビアとの力関係から言ってもサウジが弱まることは、原油関係者、中東では、誰も損はしない。さらに、トランプのユダヤ支持で、暗黙の連合関係はアンチトランプ、米国寄りのアンチサウジで結束を強めた。

今後、経済的にも、外交的にも、大きく情勢は変化していくだろう。

トランプの「超弱腰外交」

重要なポイントが二つある。

1つはトランプ外交の本質は、超弱腰外交、ということだ。彼は、ツイッターで吠えるだけで、結局面倒なことは何もしない。だから、口だけの脅しに屈してしまえば、それで済むなら立場の弱い国はトランプの要望を最低限受け入れて手を打つだろう。

これは経済外交に表れる。経済外交が簡単なのは、妥協手段がいくらでもあることだ。関税を10にするか20にするか、品目を増やすか減らすか。一方、信念、嫌悪感、プライド、そういうものは妥協ができない。世論もその一つだ。支持率を45か50にするか、細かいコントロールはできない。このポイントで支持率を5失ってもこちらで10取り返して、妥協点を見出す、ということはできない。支持が増えるか、減るか、方向性しか動かせない。

そして、動き出したらどこで止まるか、どこまで行ってしまうかわからない。だから、外交で妥協は禁物なのだ。外交交渉はバイ(2国間、2つの主体)でやれば、勝つか負けるかなのだ。戦争そのものなのである。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

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