コラム

中央銀行は馬鹿なのか

2016年05月02日(月)12時22分

 だから、この局面で日銀が追加緩和をする理由はみじんもない。これほど効果が出ているのに、なぜ追加緩和をする必要があるのか。それが日銀の考えである。

 日銀が馬鹿でも投機家が馬鹿なのでもなく、ただ同床異夢であったことが、彼らをつないでいた、国債およびリスク資産購入と金利引き下げというリンクが途切れただけのことだったのである。それは、評判の悪いマイナス金利が、日銀にとっては、なぜ評判が悪いのか全く分からないほど、驚くほどの目的達成を果たした、金利低下政策であったことによったのである。

 だから、未だに、マイナス金利が悪い、という批判には日銀は全く動じず、バフェットがマイナス金利を批判しようが、銀行が困っていると愚痴をこぼそうが、何を言っている、これだけ金利、しかも実体経済に一番影響が大きいと思われる長期金利が下落しているのだから、これ以上景気にプラスの政策はない、だから、これでいいのだし、これ以上動く必要はどこにもない、ということになるのだ。

 問題はただひとつ。なぜ金利低下が実体経済にプラスにならないのか、と言うことに尽きる。これは、別の機会に議論することとしたいが、要は、日本では、すでに金利は物理的な限界まで下がってきているから、ということだ。欧州では、貸出金利や住宅ローン金利は、マイナス金利以前は5%や2-3%という水準であった。これは低下余地があった。日本は、もともと1%前後あるいは1%-2%台で、事務コスト、リスク管理、という点からは、市場金利がどれだけ下がろうとも、これ以上下がる余地はほんのわずかしかない、ということにある。

 つまり、まさに金融緩和による景気刺激は限界に来ている、いや限界を超えて副作用だけが生じている、ということが根本にあるのである。金融政策の能力の限界に来た、というのは、馬鹿なのではなく、実力を120%発揮しているのだから、アスリートとしては絶賛されるべき状態で、あとはゆっくりお休み、と声をかけるところなのだ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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