コラム

軽減税率の何が問題か

2015年12月16日(水)13時47分

 しかし、軽減税率は、低所得者だけでなく、すべての消費者、つまり、すべての有権者に及ぶ。これは効果的だ。消費税率引き上げに対して、しぶしぶ賛成な人も、強く反対な人もいる。しかし、選挙活動に地元に戻ったときに、すべての人に、社会保障のために必要なんです、みなさんの痛みは分かっています、ですから、できる限りのことを、ということで食料品に関しては、軽減税率を導入しました、頑張りました、いろいろ難しい問題はありましたが、そして、財務省の反対を押しのけるまで頑張りました、こう説明できるのである。

 実際、有権者自体も、自分の負担が減るのは、低所得者の痛み軽減への共感よりも遙かに大きい。だから、誰も反対しないのである。社会保障削減への不安から、軽減税率に反対している人々に対しては、絶対に財務省にそんなことはさせません、頑張ります、と言えるのであり、財源については、選挙の後、責任を持って考えます、と言えば、選挙の時には逃げ切れるのである。

 だから、軽減税率は、次の選挙、と言う意味では政治的に合理的な政策である。

 問題は、その先だ。

軽減税率から始まる税収減と増税のスパイラル

 短期的には、次の選挙を勝つためには良いが、その先の選挙には不利になるのである。だから、政治的、選挙的にも、本当は軽減税率を導入してはいけないのだ。

 なぜか。それは、さらなる消費税率の引き上げが前倒しで必要になるからである。安倍政権では消費税引き上げの必要がなくとも、次の自民党政権では100%消費増税が必要になるだろう。

 軽減税率を導入すれば、景気にはマイナスだから、税収は、これから伸びなくなってくる。(ただし、一部の日本企業は、海外展開が加速し、さらに収益を伸ばすだろう。しかし世界的な節税対策の流行から日本企業も遅まきながらこの流れに乗り、法人税の税収も伸びなくなるだろう)

 景気も悪くなり、税収も足りなくなれば、いよいよ日本の株価も下がることになり、これまでの株価上昇依存の経済政策が破綻することになる。さらに税収は伸びなくなるだろう。

 このシナリオでは、円安、株安を海外の投機家が仕掛けてくる。国内の対抗勢力が強いため、国債には直接仕掛けられないが、海外勢の影響力の強い、為替、株で仕掛ければ、一気に日本売りの様相を呈することになろう。そうなると、現在でも少しずつ高まっているジャパンプレミアム、国内金融機関のドル資金調達困難が強まり、結果的に国内投資家も国債、国内債券市場は金利上昇の展開になるだろう。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story