『万葉集』も『古今集』も中国の2大ポルノに触発された...『詩経』と『遊仙窟』とは?
一方、『古今集』は905年に成立した。『万葉集』に遅れることざっと150年、平安時代の宮廷文化が花開かんとする時であった。これが大変な人気で、清少納言は『枕草子』の中で、『古今集』を暗唱することが当時の貴族にとって欠かせない教養とみなされたと記している。では『古今集』は『詩経』からどんな影響を受けたのか?
その影響を端的に示すのが『古今集』(真名序)である。『古今集』には仮名序(平仮名がきの序文)と真名序(漢文の序文)の二つの序文があり、冒頭にある仮名序では紀貫之の「歌とは何か」という和歌の定義や扱うべき素材、表現の方法などが精細に述べられている。一方、巻末にある仮名序は紀淑望によるものだが、そこには和歌のことがこう定義されている。
「和歌に六義あり。一に曰く、風。二に曰く、賦。三に曰く、比。四に曰く、興。五に曰く、雅。六に曰く、頌」
この言葉は前述した『詩経』そのままで、詩とは何かという根本の命題を『詩経』から借用しているのである。
『詩経』ではこの後、女性の性的な欲望がさまざまな形で謳われているのだが、『古今集』(真名序)の場合、在原業平や小野小町などを引き合いに出しながら、歌作りには情欲と向き合うことが必要であると説かれている。
下川耿史(しもかわ・こうし)
1942年、福岡県生まれ。著述家。風俗史家。著書に『10代の遺書』『日本残酷写真史』『異常殺人カタログ――驚愕の200事件』(以上、作品社)、『遊郭をみる』(林宏樹との共著、筑摩書房)、『死体と戦争』『日本エロ写真史』『変態さん』(以上、ちくま文庫)、『世紀末エロ写真館』『殺人評論』『死体の文化史』(以上、青弓社)ほか。編著に『環境史年表』(昭和・平成編/明治・大正編)、『近代子ども史年表(明治・大正編/昭和・平成編)、『家庭史年表(昭和・平成編/明治・大正編)』、『性風俗史年表(明治編/大正・昭和戦前編/昭和戦後編)』(以上、河出書房新社)ほか多数。
『性愛古語辞典──平安・奈良のセックス用語集』
下川耿史[著]
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