最新記事
シリーズ日本再発見

貧困について書くと悪辣なDMが大量に届く この日本社会で

2022年09月02日(金)16時15分
ヒオカ(ライター)

hiokabook20220902-2.jpg

写真は本文と関係ありません Cuckoo-iStock.

貧困への無理解は悪意よりも無知から起きる

ライターとして様々なテーマで執筆し、発信するようになった。すると、読者からとても目をあてられないような悪辣な言葉が大量に吹き出すテーマと、そんなに悪いことを言われないテーマがあることに気付くようになる。

貧困というテーマは間違いなく前者である。
貧困は思ったより理解されていない。

当事者の声を発信する度、「自業自得」「同情できない」といった感想が散見される。でも私は、それらの意見に悪意を感じるというより、単純に「知らない」という要素がすごく大きいように感じている。

貧困に限らず、無理解は無知からくることが多い。私たちが日頃関わる人は、社会全体の縮図ではなく、実は社会の中でいうと、ほんのごく一部を抽出したものだったりする。

私立の中高一貫校に行けば同じくらいの所得の家庭が集まっているし、大学に行けばそこは既に世の中の半分の世界なのだ(大学の進学率は約50%で推移している)。まったく違う世界を知らずに大人になり、老いていくことが可能な世の中なのである。

私は「越境」した人なのかもしれない。元々住んでいたのは最貧困層が集う団地だった。そこに住んでいた子どもたちはみな中卒か高卒で働いた。

中学までは色んなバックグラウンドの子が混ざり合った環境だった。しかし、高校で進学校に進み、大学に行くと、周囲は中流以上の家庭出身の子ばかりになった。

自分は裕福じゃないよ、という友人の話を聞くと、「大学卒業まで一度もアルバイトをしたことがない」「習いごとをたくさんしていた」「私立の中高一貫校出身」といったバックグラウンドだったりする。そして大抵そういう人たちは「自分のバックグラウンドは中流以下」という認識だったりする。社会全体ではなく、視界に入る自分と似たようなバックグラウンドの中で比較をするからだろう。

服に穴が開いているのはズボラなせいではない

そんな"ネイティブ強者"と触れる中で、様々なすれ違いが生じることがある。たとえば、先日こんな会話があった。

「ヒオカさんの両親、仕事なにしてるの?」
「フリーターです」
「ヒオカさんじゃなくて、親御さんのことだよ?」
「はい、だから、親がフリーターです」
「えっ......」

相手はしばらく絶句していた。そんなに驚くこと?と、私も驚いた。相手からすれば子どもがいる人は定職に就いているだろう、という前提があって、それに当てはまらない存在はとても特殊なものとして映るのだろう。

「なんかいつも大変そうだよね(笑)」
「なぜ、一人暮らししないの?」
「なんでパソコンくらい買えないの?」

そんなことを言われる度、言葉に詰まった。一から事情を説明してもめんどくさいと思われそうだし、かと言って、相手が納得しそうな端的な言葉も思いつかない。

長年の友人に、大人になって初めて自分のバックグラウンドを話したことがある。すると友人は驚き、「ズボラなだけだと思ってた」と言った。その友人には、靴や服など、穴があくまで着ていたことをよくイジられていた。身なりに無頓着ゆえに、買い替えないだけだと思われていたらしい。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中