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逃亡ゴーンの「日本の不正な司法制度」批判は的外れ

Why Carlos Ghosn's allegation of an unfair Japanese justice system is unjustified

2020年02月26日(水)16時00分
デーブ・ウォルシュ(英デモンフォート大学教授)

ゴーンの逃亡劇で日本の司法制度への注目が高まった Mohamed Azakir-REUTERS

<日本の刑事司法制度は2000年代以降、制度改革が進められてきたーー制度に根本的な不正があるとするゴーンの批判は当たらない>

日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が2019年12月、一連の不正資金疑惑などについて無罪を主張し、日本からレバノンへ逃亡した。そして、自分が逃げたのは日本の刑事司法制度に対して不信感を抱いているからで、「不正と政治的迫害から逃れるため」だとする声明を明らかにした。

私はここ1年ほど、日本やイギリスの研究者とともに、日英両国の司法制度において被疑者がどのように扱われているのかを調査してきた。そこで、日本では公正な裁判を受けられないのではないかというゴーンの疑念をきっかけに、その主張が正当か否か考察してみた。

裁判員制度の導入

日本政府は90年代以降、裁判における司法判断に国民の関与を高めることを目指した。それ以前は、裁判で判決を下すのは、もっぱら裁判官など法律の専門家に限られていた。国民の関与を高めようとする試みは、ほかの多くの国でも見受けられる。たとえば、アメリカやヨーロッパでも、無作為に選出された国民が、陪審員として裁判に参加する制度を採用している。

2009年に導入された日本の裁判員制度で独特なのは、重大事件の裁判では、選出された6人の裁判員が、裁判官3人とともに審理し判決を下す点だ。ゴーンの裁判は、おそらくこの形式で進められていただろう。

近年実施された複数の調査から、日本の国民の多数が裁判員制度を支持していることがわかっている。その一方で、裁判員候補として呼び出しを受けても、裁判への参加を辞退する(あるいは不選出になる)人が多い。辞退理由の一つとして、日本の刑事司法制度のアプローチが綿密で、裁判がしばしば長期化する点が挙げられる。長期間の裁判に関わることを国民が好まないということだ。

公的な義務を進んで遂行しようという人は、裁判員として適格かどうかを判断する選任手続きに入る。ここで理由があって不選任の決定が下されることもある。たとえば、裁判員候補自身が犯罪捜査の対象者であるケースだ。もっとも、裁判所による裁量で不選任となることもあり、その際は詳しい理由は公表されない。

これらを総合すると、裁判員制度が実際にどれほど国民を代表するものなのかという疑問は残る。司法に無関心な国民が、裁判員として参加する可能性は低い。その一方で、裁判員となった人の中では、司法に対してより強硬な意見を持つ人が多数を占めることも考えられる。実際、2009年の制度導入以降、判決は概して重くなっている。

裁判員制度の導入と時期を同じくして、検察には新たに、被告人ならびに弁護人から請求があったときには、公判前に証拠が記載された一覧を開示することが義務付けられた。これにより、刑事裁判のプロセスは透明性が増した。

高い有罪判決率

ゴーンは逃亡後、日本では刑事裁判で有罪となる確率が97%〜99%と非常に高いことを繰り返し訴えていた。イギリスの有罪率は85%〜87%ほどだ。とは言え、こうした比較は慎重に行わなくてはならない。日本の有罪率が高いのは、検察側が極めてリスクを嫌い、有罪になる可能性が非常に高い場合にのみ起訴に踏み切ることが要因になっているからだ。

有罪率が高いことを危惧する他の理由として、犯罪捜査の手法も挙げられる。とりわけ、日本の警察が自白を重視する点だ。被疑者は、弁護士の同席がないままで長期間の聴取を受ける可能性がある。日本の研究者が行った調査では、日本で発生した重大事件における自白率が約65%であることがわかった。この数字は、イングランドやウェールズで研究の結果明らかになった自白率およそ40%と比べると、際立って高い。

取り調べでは何が行われているか

日本の警察が行う取り調べには、多くの目的がある。警察はそもそも被疑者から、犯罪ならびに余罪や、ほかの犯罪者との関連などすべてについて情報や証拠を収集することを目指す。それ以外にも、犯罪行為に至った動機や理由を解明したり、罪を認めた人間が反省し、更生に向けて努力するよう促したりもする。

私がかつて同僚とともに、世界各地の警察で行われている被疑者取り調べについて研究した際には、日本の取り調べでは事件の事実調査が重視されており、それ以外の目的にはあまり重点が置かれていないことが明らかになった。警察自体は、取り調べはすべての目的を網羅するために行われているという信念を抱いているにもかかわらずだ。

現在進行中の私たちの研究では、警察に対してすでに供述した被疑者への公判前取り調べを行っている日本の検察官に話を聞いている。検察官らによると、こうした公判前の取り調べの場を利用して、被疑者に反省を促すと同時に、彼らが罪を犯した理由を解明し、その詳細を後に裁判で提示するのだという。

警察が取り調べで具体的に何をしているのかは、近いうちにより明らかになるかもしれない。2019年6月に法律が改正され、被疑者に対する全ての事情聴取を録音・録画することが義務化された(軽微な事件などを除く)。日本以外の国々でも、こうした動きは取り調べプロセスの向上につながる手法として議論されている。

結論を言えば、ゴーンが声高に訴えた、日本の司法制度には不正があり被疑者が不利になるという懸念は、10年前ならもっと真実味があったかもしれない。司法制度における近年の変化は、より透明で公正、かつ説明責任を伴った制度の構築を意図している。それでも、公判前のプロセスについては、早急な改善が必要とされる領域はまだ残っている。例えば、被疑者が法的助言を受ける機会が少ない点や、長期におよぶ起訴前の拘留、証拠の収集よりも自白を重視する点などだ。

世界各国のいかなる刑事司法制度と同様に、日本の制度も完全無欠ではない。しかし、根本的に不正があるというゴーンの主張は正当化できない。

(翻訳:ガリレオ)

The Conversation

Dave Walsh, Professor in Criminal Investigation, De Montfort University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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