米出版界を震撼させる楳図かずおの傑作ホラー『漂流教室』
A Perfect Edition of Horror
『進撃の巨人』なども手掛ける翻訳家ドルヅカの新訳も素晴らしい UMEZZ PERFECTION! 8 HYORYU KYOSHITSU ©2007 KAZUO UMEZZ/SHOGAKUKAN
<連載開始から半世紀近くが過ぎた今も衝撃度満点の『漂流教室』が英訳「完全版」で発刊>
子供への暴力は多くの学校で現実の問題かもしれないが、芸術作品の中で描かれることはまれだ。そんなタブーをぶち壊したのが、楳図(うめず)かずおのホラー漫画『漂流教室』(小学館)だった。その衝撃は、1972年に週刊少年サンデーで連載が開始された当時から、今に至るまで色あせない。
アメリカでは既に全11巻のペーパーバック版が出版されているが、ここにきて日本の漫画を数多く英語圏に送り出してきた米ビズ・メディアから新装ハードカバー「完全版」の刊行が決定。10月に第1巻が発売された。
『漂流教室』は、ぞっとするがシンプルな設定で始まる。激しい揺れに襲われた大和小学校の教師・児童862人が校舎もろとも消滅した。だが彼らは生きていて、人類滅亡後の荒廃した未来に学校ごと飛ばされていたのだ。
現在83歳の楳図が漫画を書き始めたのは、50年代のこと。今もその存在感は大きく、伊藤潤二(『うずまき』)ら後進に影響を与えている。昨年1月には『わたしは真悟』が、仏アングレーム国際漫画フェスティバルで「遺産賞」に輝いた。
シェルドン・ドルヅカによる新英訳も素晴らしい今回の完全版には、ホラー作家のモリー・タンザーが編集者として参加した。第1巻は744ページの大ボリュームだ。
子供が殺し殺される戦慄
『漂流教室』の人間観は、政府の命令で中学生が殺し合う高見広春の小説『バトル・ロワイアル』よりもさらに暗い。異世界に置き去りにされた児童と教師は過酷な生存競争に直面する。彼らが意味もなく死に、殺戮を行うさまは、楳図が描く子供たちが丸顔に大きな目の無垢な風貌(手塚治虫の影響を受けたと言われる)なだけに余計に衝撃的だ。
主人公の高松翔は小学6年生のやんちゃ坊主。地震の朝、母とけんか別れしたことを悔やむが、母との絆がやがて元の世界との架け橋になる。