京都は「自転車」でアジアのコペンハーゲンになれる
Kyoto on the path to becoming the Copenhagen of Asia
京都の狭い路地の大半は「自動車侵入禁止」にし得る(筆者提供)
<脱クルマ社会を目指す日本屈指の観光都市、京都。既に自転車で散策しやすい世界の都市ベスト10に入っており、順調に公共交通・自転車・徒歩を優先した街づくりが進んでいるが、「マナーが悪い」といった問題も残っている>
炭素排出量を削減し、破滅的な気候変動を阻止するために残された時間はあと12年。気候科学者たちがそう警鐘を鳴らすなか、京都市は持続可能な未来に向けて代替案を模索している。
自動車に大きく依存するのをやめ、公共交通機関や自転車、徒歩による移動手段へと舵を切りつつあるのだ。同市では既に、(商用などを除く)私的な移動の4分の3以上が、車以外の手段によるものとなっている。
京都市は2010年、「歩くまち・京都」憲章を定め、脱「クルマ中心」社会を目指し始めた。そのための実施プロジェクトは94にものぼる。
そうした取り組みが見事な成果を挙げていることは、京都市が公表したデータを見れば分かる。公共交通機関の利用率は大幅に増加した。市内に乗り入れる自動車の数は年々減少し、駐車場の利用率も減っている。京都市内を車で移動する観光客は、2011年は21%だったが、今ではわずか9.3%だ。
その結果、交通輸送による二酸化炭素排出量は2015年、1990年と比べて20%減少している。
サイクリストのための街づくり
京都市は状況をさらに改善しようと意気込んでいる。次の目標は、自転車の利用を活性化させることだ。
京都を観光するなら自転車がいちばんだ。住民でも観光客でも、京都の美しさを探求し、歴史遺産をじっくりと体験したいなら、秘訣は自転車を使うことである。年間5700万人近くの観光客が訪れる京都では、レンタサイクルの利用者がますます増えている。
京都はコンパクトで平坦なうえ、道路が碁盤目状に走っているため、自転車に乗るのは楽だし、道も分かりやすい。自転車で散策しやすい世界の都市ベスト10にも選ばれている。
自転車による移動は、便利であると同時に効率的だ。可動性に優れ、幅広い年代の人が利用できる。小学生から幼児を乗せた親、近所に買い物に行く65歳以上の高齢者までが自転車を使う。
2018年6月、日本にまだ少ないシェアサイクル事業者のひとつ、「PiPPA(ピッパ)」が京都でサービスを開始した。22カ所・100台で始まったが、2018年末までに50カ所・500台に拡大する予定だ。電動アシスト付き自転車も加える計画があるが、それによりさらに幅広いユーザーが京都を自転車で移動できるようになるだろう。
革新的なモビリティの取り組み
筆者2人は共に、京都周辺を広範囲にわたって自転車でめぐり、その素晴らしさや楽しさを味わってきた。その一方で、京都に住む一般の人々が自転車をどう利用しているのかについても関心を持ってきた。
そんなわけで、京都市が2015年3月に策定した「京都・新自転車計画」には感心させられた。これは2010年の「京都市自転車総合計画」を見直した内容となっている。
京都・新自転車計画は、京都市全域の社会、経済、サステナビリティ(持続可能性)という幅広い領域において、サイクリングが健全な手段であることを広めるためのものだ。
京都市で自転車利用がトレンドとなっているため、目標は順調に達成されそうだ。正式な自転車専用通行帯は現在、全長45キロ近くに伸びた。
416キロに及ぶ自転車専用道があるデンマークのコペンハーゲンなど、ヨーロッパの有名サイクリングシティには及ばないものの、京都市の自転車専用道路のネットワークはアジアの都市にしてはかなりの規模だ。
放置自転車は、2001年と比べて27分の1に減少。同期間に駐輪場のスペースは65%増加した。
京都在住者の3人に2人は自転車を所有しているが、マイカーを持っているのは3人に1人だ。自動車の所有率は年々減っている。
京都市は自転車通学する子供が最も多い都市のひとつでもある(京都市より多いのは大阪市のみ)。自転車利用は20~34歳、ならびに65~69歳の年代で増加傾向にある。
求められるサイクリストとドライバーの意識向上
ただし、持続可能なモビリティ社会という目標を京都市が達成するうえで、いくつかの障害が立ちはだかっている。
まず、車道を走行する自転車は33%しかいない。それ以外の人は歩道を走行しており、歩行者と自転車の双方にとってあまり安全ではない。
次に、日本のサイクリストはルールを守らないことで評判が悪い。信号を無視し、道路を逆走する。自転車に乗りながら音楽を聴いたり、スマートフォンを使ったりするし、二人乗りや、傘さし運転も見かける。ヘルメットはかぶらないし、夜間にライトを付けないで走る人も多い。
要するに、日本で自転車に乗る人たちは、ときに無謀なのだ。京都市の自転車政策がサイクリストのマナー向上を重視しているのは納得できる。また、同市が2018年4月から自転車保険の加入を義務付けたのもうなずける話だ。保険加入の義務付けは、ほかの都市も真似できることだろう。
京都・新自転車計画では、自転車に乗る人に分かりやすい路面標識を整備することや、ドライバーとサイクリストの両方が道路でのルールやマナーを学べる大規模な教育プログラムに重点的に取り組んでいる。
嬉しいことに、京都市で発生した自転車事故の件数は2004年から40%も減少。交通事故全体に占める割合は20%となった。この数字はコペンハーゲンとほぼ同じだ。
京都市はほかに何ができるか
京都市のモビリティへの取り組みでは、ソーシャルデザインとイノベーションに引き続き重点を置いていくことがカギとなる。京都市の人口は2040年に、2010年と比べて13%減少すると予想されている(約128万人になる見込み)。その一方で、65歳以上の高齢者の割合は大幅に増加する。
これはマイカー所有者が減り続けることを意味する。減少率は推定で年6~10%だ。一方で、自転車を所有する人は、毎年7%を超える勢いで増えるだろう。
こうした状況にあって、公共交通機関や自転車、徒歩による移動手段に注力するのはきわめて筋が通っている。
しかし――とりわけ市中心部において――自動車の交通量を減らすために京都市ができることはまだたくさんある。参考になるのが、イギリスのマンチェスターだ。同市は2018年6月、15億ポンド(約2181億円)を投じて1600キロに及ぶ自転車道路網を建設する計画を発表した。
京都が見習うべきもうひとつのモデルは、世界で最も自転車に優しい都市、コペンハーゲンである。
世界各地の都市が現在、「コペンハーゲン化」を目指している。しかし、いずれはアジアにおけるサステナビリティの成功事例として、京都が見習われる日が来ることを願っている。
(翻訳:ガリレオ)
Brendan F.D. Barrett, Specially Appointed Professor, Center for the Study of Co*Design, Osaka University and Larissa Hjorth, Professor of Mobile Media and Games, RMIT University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.