最新記事
シリーズ日本再発見

居酒屋不況の勝ち組「鳥貴族」のブレない信念

2017年06月13日(火)15時00分
高野智宏

特徴的な黄色と赤の看板。このように、1階ではなく、家賃の安い空中階に出店することも多い 写真提供:鳥貴族(すべて)

<低調続きの日本の居酒屋業界にあって、急成長を遂げている「鳥貴族」。その強さはどこから来るのか>

日本フードサービス協会によれば、2016年の外食産業市場はファストフードを筆頭に業界全体が好調だった。しかし、「パブレストラン/居酒屋」だけは売上高が前年比92.8%と、実に8年連続して前年を下回っている。

そんな低調続きの居酒屋業界にあって、2011~2016年の5年間で売上高は約3倍、営業利益率は約10倍とまさしく急成長を遂げているのが、大阪を発祥とする「鳥貴族」だ。黄色ベースに象形文字のような店名を赤文字で描いた、印象的な看板を目にしたことがある読者も多いのではないか。

鳥貴族は、一流ホテルのイタリアンレストラン出身の大倉忠司がさる焼き鳥店でナンバー2として経営や多店舗展開を学んだ後、1985年に東大阪市で創業した焼き鳥専門の居酒屋チェーン。関西、東海、関東のみで展開し、5月末現在の店舗数は、直営店とフランチャイズチェーン店の合計で541店舗と、業界でいま最も勢いのある企業だ。

居酒屋不況のなか、なぜ鳥貴族は勝ち続けられるのか。

鳥貴族といえば、フード・ドリンクのすべてが280円(税別)という「280円均一」の料金形態が代名詞だ。ラインナップも多彩で、多くのメニューで280円以上の価値と満足感を感じさせる。

japan170613-1.jpg

お通しはなく、全メニューが280円均一。合計90グラムの鶏肉とネギを使用し、一般的な焼き鳥の3倍の大きさの看板メニュー「貴族焼」も280円だ

「これは、大倉が創業翌年より始めた250円均一という料金形態に端を発し、消費税が導入された1989年に280円へ値上げして以降、28年にわたり守り続けている、弊社のこだわりでありチャレンジなのです」とは、営業を統括する取締役の山下陽氏だ。

なぜ均一料金なのか。それは、大倉が創業前に通ったある炉端焼き屋が均一価格で高品質の料理を提供していたことに感動。自らもその感動を世の中に提供しようと、生ビールを300円以下で提供する店が少なかった当時、インパクトも考慮して250円に決め、均一料金を始めたからだという。

料理により原価率の差があるとはいえ、決して利幅が大きくはない、薄利多売の商売だ。だからこそ鳥貴族は、コスト削減を徹底してきた。「食材の仕入れ方法はもちろん、出店先も家賃の安い空中階や地下、また広さも60~70席を確保できる40坪程度の店舗を中心とし、それは今も変わりません」と、山下氏は言う。

【参考記事】居酒屋のお通し(=強制的な前菜)には納得できない!?

低価格・均一料金の「居酒屋戦争」を勝ち抜く

それまで関西を中心に展開していた鳥貴族が、頭角を現し始めたのは10年ほど前のこと。意外や外食産業にも大きなダメージを与えた2008年のリーマンショックがその引き金となった。「280円均一が不況に強かった。280円にして質の高い料理が食べられるという、コストパフォーマンスの高さも評価いただいたと思います」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中