タトゥーの人も入浴OKへ、温泉業界が変わる?
シールは館内にて1枚200円で販売されるものに限定され、その大きさは12.8cm×18.2cmのB6サイズ。入館時に申告があれば、脱衣所まで同行するスタッフの手により貼られ、入れ墨・タトゥーがシールをはみ出さない場合のみ入浴が可能となる。なお、タトゥーが数カ所に点在する場合も、シールを切り分けて隠せるならば問題はないが、シール1枚以内で隠しきれることが条件だ。申告せずに入浴した場合も、スタッフが気づいた時点でシールの購入及び貼り付けを依頼しているという。
「実際に貼ってみないと隠しきれるかわからない方も多く、残念ながら貼ってみてすべてが隠れない場合は入館をお断りしている」とは、「おふろcafé utatane」支配人の新谷竹朗氏。その際、大半は納得して帰っていくというが、なかには「これくらいいいじゃないか」や「シール2枚じゃダメなのか」と異を唱える客もわずかながらに存在するという。「しかし、条件を曖昧にすると歯止めが効かなくなる。そこは厳密に対応したい」と気を引き締める。
昨年8月にまずは1カ月の試験導入、その後3カ月、そして現在の「無期限」へと試験運用期間を延長している同施設。大きなトラブルが発生せず、また一般客からのクレームもないため、これまで順調に延長してこられた。「当施設はお客様の年齢層が若く、タトゥーに対する否定的な感情が比較的低い。また、入れ墨やタトゥーが入っていたとしても、ルールに則り、ちゃんと隠してくれる一般的な常識を持ち合わせている人ならば問題ないと許容する意識があると思う」(三ツ石氏)
「おふろcafé utatane」の月間利用者数は約2万人。そのうち、シールを貼って入浴する入れ墨・タトウーの利用者は月平均20人程度とごく少数に限られているが、「電話などでの問い合わせは週に2、3件はあり、サイトでの告知やメディアの報道で知名度は上がってきている」と、新谷氏。となれば将来的に入れ墨・タトゥーの利用者が増加する可能性もある。
「シール1枚で隠せる範囲というルールに従っていただけるのであれば問題ない。入れ墨やタトゥーを入れている人は『入浴を楽しむために隠す』、入れていないお客様も『隠しているなら許容する』、そうした理解と共存関係が保たれている限りは問題ないというスタンスだ」(三ツ石氏)
「東京五輪に向け、業界全体で前向きな議論を」
温浴振興協会代表理事の諸星氏も、「入れ墨・タトゥーを入れる人の大半が反社会的な人とは限らなくなり、また、暴対法の徹底により暴力団が大手を振って温浴施設を利用できる環境ではなくなったいま、無条件に入浴拒否という姿勢はいかがなものか」と語る。「ルールや条件に則って利用するならば、入れ墨・タトゥーをしている人でも温泉を楽しむ権利はあってしかるべき。2020年の東京オリンピック開催でさらなるインバウンド増加が予測され、機運が高まるいまこそ、業界全体で前向きな議論を展開してほしい」
諸星氏の言うとおり、入れ墨・タトゥーをしているからといって反社会的な組織の人間とは限らないのは事実だが、海外とは異なり、未だ入れ墨・タトゥーに対する偏見や嫌悪感を抱く人が多いこともまた事実だ。
今回、星野リゾートや「おふろcafé utatane」が条件付きで解禁したことは大きな一歩に違いないが、これが試験運用ではなく通常運用となり、さらには業界全体で機運が高まり、規制を緩和する施設が増えるためには、入れ墨・タトゥーを入れた利用者たち自身のマナー遵守がなにより求められるだろう。