最新記事
シリーズ日本再発見

タトゥーの人も入浴OKへ、温泉業界が変わる?

2016年10月31日(月)10時44分
高野智宏

 一般公衆浴場である銭湯には、地域により異なるが行政から補助金が降りるとともに固定資産税は免除され、さらにはもっとも大きな経費と思われる水道料金も実質的にほぼ無料で使用できるという。そのために、東京都ならば460円と入浴料金が都道府県で一律に価格統制され、また前述した生存権を保護すべく、入れ墨やタトゥーを入れた客を拒否できないというわけだ。

 対して"その他の公衆浴場"であるスーパー銭湯などは、行政からの補助金もない完全な民間企業。入浴料も自由に設定できれば、アルコールを提供したりリラクゼーション設備を備えていたりと、「健康で文化的な最低限度の生活」には直接関係のないレジャー施設であるため、入浴を拒否しても生存権の侵害には当たらないという解釈がなされているのだろう。

「そうした経緯や法律的な背景もあり、90年代後半以降に入れ墨やタトゥーを入れた人の入浴を禁止する温浴施設が徐々に増え、全国的に一般化していったという流れにある。たまに『当局の指導により』と看板に但し書きされている施設も見受けられるが、法律的にそれは出来ない。入れ墨やタトゥーの入浴禁止はあくまで施設自身の規制であり、法的根拠のあるものではない」(諸星氏)

japan161031-2.jpg

昨年8月からシールで隠れれば入れ墨・タトゥーの人も入浴OKとしている埼玉県大宮市の「おふろcafé utatane」

シールで隠せば入浴OKの温浴施設では...

 反社会的人物の排除を目的として始まった入浴禁止規定だが、ファッションタトゥーを入れる人が増え、また、タトゥーがより一般的な外国人観光客が増加し続ける昨今、そうした"自主規制"に限界があること、そして、これまで以上に冒頭で紹介したような問題が起こることも大いに考えられるだろう。

 そんななか、旅館やスーパー銭湯の中にも規制を緩和する動きが出てきた。総合リゾート運営会社の星野リゾートが、昨春より全国12カ所で展開する傘下の温泉旅館「界」で、入れ墨・タトゥーのある客も、シールでカバーすることを条件に入浴を許可し話題となったのだ。

 また、星野リゾートとほぼ時期を同じくして、昨年8月から入れ墨・タトゥーのある客でもシールで隠すことで入浴を許可しているのが、埼玉県大宮市の「おふろcafé utatane」だ。こちらは、関連施設から直送された天然温泉の露天風呂もある大浴場をメインに、お洒落な造りの館内でカフェめしやワインなどを提供。さらには無料で漫画やコーヒーなどが楽しめ、宿泊施設も併設する、主に若い女性をターゲットとしたカジュアルな温浴施設だ。

 同店をはじめ、埼玉県内に4つの温浴施設を展開する温泉道場の三ツ石將嗣・執行役員兼メディア事業部長に、規制緩和へと踏み切った理由を聞いた。

「当社の企業理念は『お風呂から文化を発信』すること。今回の条件付きの入浴許可も、できる限り多様な文化的背景を持つ方が共存できるようにしたい、新しいことにチャレンジしたいという弊社の姿勢の現れであり、入れ墨・タトゥーのお客様を一律に入浴拒否とする業界の慣行に一石を投じたいという想いから始めた。これが業界さらには国民的な議論の活性化につながればと考えている。原則禁止のスタンスはそのままに、まずは試験運用として開始した」

japan161031-3.jpg

「おふろcafé utatane」の大浴場(提供:温泉道場)

japan161031-4.jpg

あくまで試験運用のため、いまでも「おふろcafé utatane」の屋外には入れ墨・タトゥーは「ご遠慮ください」との表示(左)。その一方、入り口近くの立て看板で、条件付きで入浴可能なことを説明している(右)

【参考記事】「おもてなし」の精神で受動喫煙防止に取り組む京都

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、日本などをビザ免除対象に追加 11月30日か

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

ゴールドマン、24年の北海ブレント価格は平均80ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中