最新記事
シリーズ日本再発見

ニッポン名物の満員電車は「自然となくなります」

2016年10月24日(月)15時50分
小川裕夫(ライター)

japan161024-3.jpg

東西線の落合駅-南砂町駅間の各駅に設置された"早起きキャンペーン"の端末。IC乗車券をタッチすることでメダルを獲得できる仕組みになっている(撮影:筆者)

 東京メトロ各線の混雑率は現在、180%以下におおむね抑えられているが、東西線だけは事情が違う。東西線は混雑率が180%超になっており、東京メトロの悩みの種になっていた。しかも、東西線の沿線や、相互乗り入れをしている東葉高速鉄道の沿線はニュータウン開発で人口が増え続けている。ほかの地域では人口減少という問題を抱えていても、東西線だけは人口増という嬉しい悲鳴をあげていたのだ。

 そうした事態を受けて、東京メトロは東西線の飯田橋駅-九段下駅間に折り返し線を新設したり南砂町駅に線路・ホームを増設したりするなど、輸送力の増強を図っている。しかし、ハード面の整備に着手しても、それらが工事を終えるのは2019年以降になる。その間、東京メトロとしても混雑対策を怠るわけにはいかない。そこで打ち出されたのが、"東西線早起きキャンペーン"だった。

 今春に実施された"東西線早起きキャンペーン"は、PASMO、Suicaなどの交通系IC乗車券で東葉高速鉄道の東葉勝田台駅-東西線の門前仲町駅間で乗車し、東西線の南砂町駅-落合駅までに降車、または乗換する人が対象としている。朝のラッシュ時より前の時間帯に駅に設置されている専用端末にIC乗車券をタッチするだけで、最高2万円の商品券またはクーポン券の抽選に応募できる。

 東京メトロは特典をつけてでも時差通勤を浸透させて、通勤ラッシュの混雑を緩和させようとしていた。"東西線早起きキャンペーン"の参加者は、約1万5000人。これが多いのか少ないのか、いまのところ判断することは難しいが、ともかくソフト対策で混雑の緩和に取り組むしかないのだろう。

 一方、時差通勤以外のソフト対策としては、ITを使ったものもある。

 JR東日本は、山手線の号車ごとに混雑率が一目でわかるアプリを2014年にリリース。通勤時間帯は特に顕著になっているが、乗客は階段付近の号車に固まる傾向がある。こうした偏重を少しでもならすことができれば、同じ乗車率でも乗客の不快感は低減する。JR東日本がリリースしたアプリには、そうした狙いも含まれている。

 現在、同アプリは山手線のみの情報提供にとどまっているようだが、今後は各線にも広がっていくだろう。

japan161024-4.jpg

JR東日本は、山手線に混雑度がわかるアプリを導入。号車ごとの混雑を少しでもならそうと試行している。現在、団塊の世代が定年退職したことで山手線の利用者は減少傾向にあり、山手線の混雑率はピークを過ぎている。そのため、山手線では6扉車を廃止し、全車4扉車に切り替えている(写真は6扉車のE231系500番台、撮影:筆者)

 鉄道会社は混雑緩和のために試行錯誤を繰り返している。そうした努力によって、"痛勤ラッシュ"とも揶揄された朝の風景は、近い将来に消えてなくなるだろう。

 小池都知事が満員電車をなくそうと意気込むことで、それら鉄道会社の満員電車対策が勢いを増す可能性は高い。そうなると、これまで以上に満員電車は早くなくなっていくのかもしれない。鉄道会社の地道な取り組みと小池都知事の手腕に期待したい。


japana_banner500-4.jpg

japan_banner500-3.jpg

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感11月確報値、71.8に上

ワールド

レバノン南部で医療従事者5人死亡、国連基地への攻撃

ビジネス

物価安定が最重要、必要ならマイナス金利復活も=スイ

ワールド

トランプ氏への量刑言い渡し延期、米NY地裁 不倫口
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中