コラム

バイデン政権とは何だったか──「超大国であろうとして空回り」トランプとハリスそれぞれの打開策

2024年07月25日(木)12時15分

しかし、それでもバイデンと大きな違いとしてあるのが、バイデン以上に自由や民主主義を重視する姿勢だ。

ハリスはイスラエルによるガザ侵攻を、バイデン政権の主要閣僚のなかでいち早く批判した一人だ。だからハリスが大統領になればイスラエル向け兵器支援が絞られるという見立てもある。


先述のように、ガザ侵攻がバイデンのダブルスタンダードを際立たせた。とすると「たとえ同盟国でも深刻な人道危機を招くことは認めない」というハリスの方針は、このダブルスタンダードを多少なりとも緩和する。

わずかな矛盾も見過ごされにくい

つまりハリス当選の場合、アメリカはこれまで以上に世界のロール・モデルとして振る舞おうとするとみられる。

それはそれで、同盟国の問題を黙認してきた冷戦時代からのアメリカの行動パターンとは異なる。

政治家の方便や建前にうんざりした世論には、こちらの方が一貫性があって、受けはいいかもしれない。

とはいえ、自由、民主主義、人権といった原則をこれまで以上に厳格に適用すれば、わずかな矛盾や逸脱もこれまで以上に見逃されにくくなる。

深刻な人権問題を抱える同盟国はイスラエルだけでない。程度の差はあれ、インド、サウジアラビア、そして白人極右のテロが広がるヨーロッパ各国(この点ではアメリカも同じだが)も同様だ。子どもの貧困などが目立つ日本も例外ではないかもしれない。

しかし、これらに逐一口を出せば外交に支障が出る。かといって、何もしなければ、世論の逆風をこれまで以上に強く受ける。

有色人種の女性で、 “差別やヘイトに厳しいはず” と期待を抱かれやすいがゆえに、その期待が少しでも外れた時に幻滅が広がりやすいことは容易に想像される。

その意味で、ハリス政権が誕生しても、アメリカにはイバラの道が待ち受けると予測される。

バイデンが苦闘した “超大国として振る舞おうとして空回り” の逆境を乗り越える二つの道筋は、どちらも険しいと見込まれるのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ユナイテッドヘルスケアのCEO、マンハッタンで銃

ビジネス

米11月ADP民間雇用、14.6万人増 予想わずか

ワールド

仏大統領、内閣不信任可決なら速やかに新首相を任命へ

ワールド

ロシア大統領、政府と中銀に協調行動要請 インフレ抑
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求可決、6時間余で事態収束へ
  • 4
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 5
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 6
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 7
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞…
  • 8
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない…
  • 9
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 10
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 4
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story