コラム

バイデン政権とは何だったか──「超大国であろうとして空回り」トランプとハリスそれぞれの打開策

2024年07月25日(木)12時15分

世界銀行の統計によると、世界全体のGDPに占めるアメリカの割合は1989年の冷戦終結段階に約28%で、2022年にはこれが25%程度で微減にとどまったが、同じ時期に中国は2%弱から約17%にまで急伸した。

つまり、アメリカが相変わらずNo.1であるとしても、かつてほど圧倒的な優位は失われている。


そのなかでバイデンは冷戦時代さながらに世界のリーダーとして振る舞おうとしたわけだが、もはやアメリカ自身が白を黒と言いくるめるだけの力を失っている以上、自由や民主主義といった言葉だけが余計に空回りしやすくなったといえる。

トランプ政権が復活したら

超大国の大統領であろうとしたバイデンが図らずも超大国アメリカの限界をあらわにしたとすれば、バイデン後のアメリカはどこに向かうのか。

今後の大統領選挙で軸になるとみられるのは、トランプとカマラ・ハリス副大統領だ。この二人からは全く対照的な未来予想図をうかがえる。

仮にトランプが当選すれば、バイデンのようなダブルスタンダードは影を潜めるだろう。良くも悪くも、トランプはそもそも外国に関心が薄く、大統領時代も自由や民主主義を世界に向かって発信したことはほとんどなかったからだ。

現在でもトランプの関心はアメリカの経済的利益と安全にほぼ集中していて、大戦後のアメリカ歴代大統領が自明としてきた “超大国として世界をリードすること” は、アメリカのコスト負担に見合わないと判断しているようだ。

ペイされるか否かで全てを判断するなら、国外で自由や民主主義を説いて泥試合に陥るような “ムダ” は避けるだろう。実際、トランプはウクライナだけでなく、イスラエル、台湾などへの支援に消極的な姿勢をみせている。

つまり、トランプが大統領になればアメリカはそもそも超大国として振る舞わなくなるので “超大国として振る舞おうとしてそれができずに空回りする” というバイデンの苦悩はなくなると予想されるのだ。

ただし、それは2020年までと同じように、アメリカ自身が世界最大の不安定要因になる可能性と紙一重といえる。

ハリスが当選したら

これに対して、バイデンが自身の撤退に合わせて支持を表明したハリスは、ナンシー・ペロシ元下院議長など民主党有力者の多くからも支持されている。

そのハリスが当選した場合、アメリカで初めて有色人種女性の大統領が誕生する。それ自体エポック・メイキングだが、ここではその外交方針に話を絞ろう。

ハリスは法律家としてのキャリアが長く、外交・安全保障分野での実績は少ない。そのため大統領になっても基本的にバイデン路線を引き継ぎ、ウクライナ支援や中国包囲網の形成などは維持されるとみられる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

JAM、25年春闘で過去最大のベア要求へ 月額1万

ワールド

ウクライナ終戦へ領土割譲やNATO加盟断念、トラン

ビジネス

日経平均は小幅に3日続伸、小売関連が堅調 円安も支

ビジネス

午後3時のドルは150円前半へ反発、韓国ウォン急落
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説など次々と明るみにされた元代表の疑惑
  • 3
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない国」はどこ?
  • 4
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 5
    【クイズ】世界で1番「IQ(知能指数)が高い国」はど…
  • 6
    NATO、ウクライナに「10万人の平和維持部隊」派遣計…
  • 7
    健康を保つための「食べ物」や「食べ方」はあります…
  • 8
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防…
  • 9
    なぜジョージアでは「努力」という言葉がないのか?.…
  • 10
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 6
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 7
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや…
  • 8
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 9
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 10
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story